『ワインは期待と現実の味』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.147

ワイン×HIPHOPという世界観がクセになる映画

ライター:ほりさげ

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回紹介するのは、Netflix限定の映画『ワインは期待と現実の味』(洋題は『UNCORKED』)だ。

 

『ワインは期待と現実の味』とは?

最難関資格であるマスターソムリエになる夢を持つ主人公・エライジャ。メンフィスでバーベキュー専門店を営む両親の手伝いをする一方で、ワインショップで働きながら知識を蓄えている。将来は家業を継ぐことを求められながらも自身の夢を諦め切れず、何度も父親と衝突してしまう。唯一の理解者である母親の言葉に励まされながら努力を続けるが…。

主演は、Netflixドラマ『GET DOWN』でグランドマスター・フラッシュ役を演じたママドゥ・アティエ。

①“ワイン×HIPHOP”という新しい世界観。

エライジャの故郷であるテネシー州・メンフィス。かつてはブルースやロックンロールが発展するなど、音楽史でも重要な位置付けとなっている町であり、さらにここ10年ではトラップなどに代表されるサウスHIPHOPを特徴づける重要エリアだ。

そんなメンフィスが舞台とあって、本作ではHIPHOPの曲がたっぷりかかる。テーマはワインだけど、どこかHIPHOPの空気感も織り込まれていて、そのユニークな組み合わせがどこかクセになるんだ。

ちなみに冒頭シーンで流れるのは、メンフィス出身のラッパー・Yo Gottiの『Juice』だ。

 

他にも、HIPHOP好きをくすぐるシーンがたくさん。例えばワインショップで働くエライジャが、女の子から「白ワインはある?素人だからよく分からなくて」と尋ねられるシーン。彼は女の子に伝わりやすいよう、ワインの特徴を有名ラッパーに例えて解説するんだ。

「シャルドネ」は、いわばワインの祖先だ。万能で滑らかで何にでも合う。例えるならワイン界のJay-Zだ。「ピノ・グリージョ」は、白ワインだけど少しスパイスが入っていて刺激がある。Kanye Westだね。「リースリング」は、爽やかで上品で甘みもあるから、Drakeかな。

ワインのことはよく分からなかった女の子も笑みを浮かべ、「じゃあDrakeのボトルをもらうわ!」と満足した様子。もしかしたらこれがHIPHOPが浸透しきっているメンフィスの若者のリアルな会話なのかもしれない。

②“期待”と“現実”を
ワインの味わいに例えたタイトル。

夢を追うというのはいつの時代もイバラの道だ。実家の家業をとるか、自分の夢をとるか…。エライジャは終始この葛藤を抱えながらも、出会った仲間と一緒にソムリエ試験に向けて勉強に励み、自宅やバイト先でワインの試飲を繰り返す。
がむしゃらに努力を続け、メキメキ腕を上げていくシーンはテンポが良く、青春映画好きにもおすすめだ。

…とはいえエライジャが描く夢はかなり狭き門だし、家族にも理解してもらえない。じゃあどうすれば良いのか。何が正解かがないからこそ、もがき続けるエライジャの「期待=夢を追う時の高揚感」と「現実=現実を見つめる覚悟」の両方が真に迫ってくる。
そういった人生における二面性を、ワインが持つ複雑な味わいに例えたのがこの映画のタイトルというわけ。うまいこと言うなあ!

③家族の微妙な緊張感や親密さを見事に描く。

家族の複雑な関係性を繊細に描いているのも、この映画の注目すべきポイントの1つだ。

イライジャの父親は、長男であるエライジャに店を継いでもらうため、本人の声には耳を貸さず厳しく仕事を教える。ある日エライジャは、思いきってソムリエの専門学校に行きたいと伝えるものの、父親はもちろん反対するし、他の家族に関しては「ソムリエ」が何なのかもわかっていない…。理解してもらえない苛立ちを感じる一方で、大切な家族の期待にも応えないと…という義務感も抱えるエライジャ……。
スパッと「じゃあこの家を出ていく!!」と簡単に縁を切れないあたりに、かえってリアリティを感じる。

たしかに現実はそこまでシンプルではないのかもしれない。受験、就活、結婚など、人生におけるイベントには、家族の存在や意見が大きく影響していることが多いよね。自分の人生ではあるけど、家族からの希望を無下にもできない。そんなすれ違いが起こった時、あなたはどうやってコミュニケーションをとっているだろう?

ちなみに物語終盤では、父親とエライジャが地元のバーに行き、オーストラリア産のワインで乾杯するという感慨深いシーンも。

④リアリティの正体は、なんと監督の実体験。

「メンフィスが舞台で、アフリカンアメリカンが主役の映画」と聞くと、人種問題にも触れた映画?と思いきや、そういった問題提起が感じられる描写は特にない。この映画で描かれるのは、あくまで夢と現実の葛藤やメンフィスの人々の暮らしだ。

これまでこの作品のリアリティの高さについて触れてきたけど、それもそのはず。実は監督のプレンティス・ペニーが、自身の家族の経験を脚本に落とし込んだ作品なんだ。そんなプレンティス監督は作品公開時にこんなコメントを残している。

「黒人の父子の物語というのはたいてい、父親の不在がストーリーの鍵となっていますが、私の実体験はそれとは異なります。肌の色やつらい体験によって人を定義するのではなく、みな同じ人間であることを前提としたうえで私たちは誰なのか、どんな人間性を持っているのかということをアートを通して映し出すことが重要になってきています」

つまり彼が描きたかったのは、誰にも起こりうる人生の選択に関する問題ということ。だからこそ、これからどんな道に進もうか悩んでいる方には、刺さること間違いなしだろう。

⑤ワイングラスを傾けながら見たい映画

この映画は、決して派手なアクションや、感涙必至のシーンが展開されるわけではない。国内最大級の映画批評サイト「Filmarks」の評価では3.6/5。必ずしも万人受けするものではないかもしれない。それでも、全体を通して、ワインへの情熱や家族の複雑な関係性を丁寧に描いた映画であることは間違いない。ワインに関する本格的な知識や描写も多く、実際に本場フランスでの撮影も行われている。

ぜひ家族や友人、パートナーと、ワインを飲みながら観てほしい映画だ。

画像出展元 : Netflix
https://www.netflix.com/watch/81024260?source=35

 

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