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「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回取り上げるのは、スパイク・リーとマーティン・スコセッシが手を組んだクライムサスペンス「クロッカーズ(1995)」。
『クロッカーズ』とはどんな映画?
ブルックリンのプロジェクトに住むストライク(メキー・ファイファー)は”クロッカー(ドラッグの売人)”。
ある日、ボスであるロドニー(デルロイ・リンドー)に、売り物のドラッグを掠め取っていた売人を殺せと命令されたことを発端に彼の人生、そして彼の周りの人々の人生が一変していく。
①ハリウッドを代表する二人の巨匠、
スパイク・リーとマーティン・スコセッシの
コラボ作
『クロッカーズ』はハリウッドを代表する二人の名映画監督のコラボ作。『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『ブラック・クランズマン』などで知られるスパイク・リーが監督を、そして『グッドフェローズ』、『カジノ』などのマフィア映画や、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などアウトローを描かせたらハリウッド随一の、マーティン・スコセッシがプロデューサーを務めたんだ。ヒップホップヘッズなら一度は観たことがある彼らのコラボときたら、絶対観るしかないでしょって感じだよね。
②90年代ブルックリンのリアル
『クロッカーズ』は、90年代ブルックリンのプロジェクトのリアルな人間模様を描いた名作。若者たちは貧困が原因で、犯罪やドラッグに手を染め、ドラッグの売買でのトラブルから殺し合い、毎日のように誰かの死体が路上に転がっている。そんな絶望的な9ブルックリン・ストリートの冷たさ、そしてそこに生きる人々の苦しみや痛みを、ダークでクールなタッチで映し出しているんだ。
③ドラッグで成り上がるか、死か
「Clockers」が描かれた背景には80年代後半から90年代初頭のCrack epidemic(クラック・エピデミック)と呼ばれるコカインの大流行がある。若者達は皆コカインの売買に手を染め、街は中毒者で溢れかえり、ドラッグのディールによるトラブルでギャング同士が抗争を繰り広げるという荒れた時代だった。そんな時代のブルックリンで、若者たちは仕事もなく、ドラッグディーラーとして成り上がるか、抗争に巻き込まれて死ぬかという究極の状況の中で生きている。そんな当時のゲットーのやるせない閉塞感をスパイク・リーの巧みなストーリーテリングで知ることができる。
④スパイク・リー組 × スコセッシ組。
実力派俳優が勢揃い
ハリウッドを代表する二人の監督のコラボ作ということで、それぞれの監督の常連だった俳優たちも出演、重厚な演技を見せている。
スコセッシ監督の初期作品の常連、ハーヴェイ・カイテル、スパイク・リー監督の出世作『ドゥ・ザ・ライト・シング』でのピザ屋の息子役で知られるジョン・タトゥーロなどの名優たちの他、後に『8 Mile』への出演で話題になるメキ・ファイファーのフレッシュな演技を見ることができるよ。
⑤「Return of the Crooklyn Dodgers」
90年代ブルックリンが舞台の映画とだけあって、サントラももちろん要チェック。今回は挿入歌であるChubb Rockや Jeru The Damajaらが組んだユニット”The Crooklyn Dodgers”の「Return of the Crooklyn Dodgers」!を紹介するよ!
Now clock kids, who got the cocaine?
Don’t tell me it’s the little kids on Soul Train.
The metaphor sent from my brain to my jaw.
It comes from other places, not the tinted faces.Yo、クロック坊主、誰がコカイン持ってんだ?
ソウル・トレインのちびっ子達だなんて言うなよ。
このメタファー、脳みそからアゴに送られてきたのさ。
こいつは他の場所から来てんのさ、色付きの顔からじゃねぇよ。
Chubb Rockのパンチライン。「Clockers」の作中で描かれているような90年代のニューヨークにおけるクラック(吸引しやすくしたコカインの塊)の流行を嘆いているリリックだ。
でも実はこのコカインのアメリカへの大量流入、招いたのはアメリカ政府の責任という説があるんだ。それが「こいつは他の場所から来てんのさ 色付きの顔からじゃねぇよ。」のパンチラインに込められているメッセージ。色付きの顔(有色人種)ではなくて、お偉い白人さんに責任があるだろ?てことだね。
80年代にアメリカへコカインが大量流入した経緯はトム・クルーズ主演の映画「バリー・シール アメリカをはめた男(2017)」などでも描かれている。
事の発端は、中米のニカラグアで社会主義政権が樹立されたこと。アメリカにとって地理的にも近く、自国に敵対するような政権が近隣にあるのは脅威。そこでアメリカは、この政権を倒すために「コントラ」と呼ばれる反政府ゲリラを支援する方針を立てる。
その中で武器の密輸を任されたのが、元パイロットのバリー・シール。
バリーはアメリカからニカラグアへ武器を運び、その帰りの空の飛行機を利用してコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルが考案したコカイン密輸ルートを使い、アメリカに大量の麻薬を持ち込むようになる。
その結果、バリーは巨額の富を得るが、一方でアメリカ国内には大量のコカインが流入し、クラック・エピデミック(麻薬蔓延問題)へと発展。アメリカ政府はこの事態を把握していた可能性が高いが、バリーの任務が国家戦略において重要だったため、黙認していたとも言われているんだ。
Cubb Rockがラップしてるのはそこんとこ。「コカインがアメリカに入ってきたのはアメリカ政府に責任あるやろ!クラックの大流行を黒人達のせいばっかにせんといてや!」て事だね。
90年代ブルックリンのリアルを感じることができる「クロッカーズ」。ぜひチェックしてみてね!
画像出典元:ユニバーサルピクチャーズ