パーティーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人達がいる。
彼らは何故、今の仕事を選んだのか?
このコーナーではパーティーというカルチャーに関わり続ける演出家たちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。
第八回は、DJだけでなくトラックメイクなどでも大活躍中のZUKIEさんのキャリアについてお送りします!前編に続き、今回は後編をお送りします。引き続きDJ SHUNSUKEとLeeがインタビューを行ってきました。
黒人じゃないコンプレックスを背負って
ZUKIE:
前編で挙げた衝撃を受けた楽曲は昔の曲なんですけど、リアルタイムで聴いて一番圧倒的だったアルバムはD’Angelo(ディアンジェロ)の『Voodoo』ですね。1999年の僕が高校2年生のときに大ヒットしたんですけど、あれを聴いたときに「もうこれ黒人じゃないと無理じゃん」と思いました。自分が一番かっこいいと思うものを、自分だとできないという絶望からスタートしたのが一番強烈だったかもしれないですね。
あの作品を通して感じた強烈な敗北感を紐解くと、根底には彼らのルーツや文化、生活様式が深く関わっているということを知るうちに、ブラックカルチャーそのものへの興味が深まっていきました。時に過剰に感じていたフィジカル力の誇示やお色気アピールにも理由があるということを知るうちに、アジア人として日本に生まれた自分はこの壁にどう立ち向かうべきなんだろうと。音楽を表現するという上では自分が黒人ではないことへのコンプレックスが常にありました。
SHUNSUKE:
それはすごいわかる気がします。
ZUKIE:
だから未だにどこかで借りている感じがしています。音楽を作るにも結局彼らが生み出したフォーマットやドラムパターンを借りていて、最近は文化の盗用がよく取り沙汰されますけど、たしかに状況によってはそういう側面もあるかもしれないと思います。異なる文化を尊重しつつ、日本に住む自分達なりの独自性や特異性を作品に落とし込むにはどうしたら良いのか、日々模索しています。
SHUNSUKE:
間違いないですね。僕は昔から黒いものがかっこいいと思ってるけど、商売としてDJをやるようになってから別にかっこよくないと思ってる曲も平気でプレイしました。生きるためにしょうがないって言い聞かせてたけど、それがものすごくストレスになってることに、自分で気が付かないふりをしたことがありました。
ZUKIE:
マジでその戦いですよね。
Lee:
自分の好きな音楽と商売との折り合いってつけられるものなんですか?
ZUKIE:
DJにおいては、僕は全然つけられます。なぜなら目の前に実際に人がいるので。
SHUNSUKE:
踊らせるという、DJとはなんぞやの話になりますね。
ZUKIE:
やっぱり自分がこれぞ最高だと思う曲をかけて、みんながしらけてるんだったら家で聴いてればいいなと思うし。DJってシンプルな話、宴会で音楽を景気よくかけてくれよってことじゃないですか。宴会に来てる人たちを盛り上げる、楽しませるのが何よりもプライオリティの一番上に置くことだと思うので、普通にみんなが求めてるものであればかけますね。
SHUNSUKE:
僕はその辺すごく苦しいなと思った時期がありました。これも人によって感覚が違う話ですが。
ZUKIE:
全然違うところがおもしろいですよね。
DJとして生きることを決めたターニングポイント
SHUNSUKE:
ZUKIE君はずっと音楽関係の仕事をしてると思うんですけど、DJも含めてそれで生きていくって決めたターニングポイントはあったんですか?
ZUKIE:
ターニングポイントというか、僕は高校生のときから音楽以外のことをできない人だったんですね。大学は音大なんですけど、いわゆる3歳からピアノを習う英才教育とかを受けていない全然中流の家庭だったんで、普通だったら音大の選択肢はないんですよ。だけど自分の中では音楽しかなかったんで、作曲が課題の学科を受けてみたら受かって。
Lee:
すごい。
SHUNSUKE:
普通じゃないと思います。
ZUKIE:
いや、まぐれなんですよ。楽器は独学でほとんど弾けないんですけど、サンプラーで曲を作るのだけは当時からちょっとうまかったので、そのときに作った曲が良かったんだと思います。夢中になれることは音楽しかなかったし、仮に音大に落ちてたとしてもどこかしらの音楽の専門学校に行ってたと思いますね。
SHUNSUKE:
高校生のときに出会った音楽が、すべてのターニングポイントだったんですね。
ZUKIE:
でも実は人前に出ることがあんまり得意じゃないので、本当のことを言うと家で一日中曲を作ってる方が好きな人間なんです。夢みたいなことを言うと、いつかヒット曲を出して、週1回ぐらいDJをして、あとは家でずっと音楽を作るような生活がしたいですね笑
だから例えばDJ WATARAIさんみたいに、DJと音楽制作をバランスよくやられて、両方で結果を出してる方と一緒になると、曲や仕事の話よりも「生活習慣はどうしてるんですか?何を食べて何時に寝て、お酒とかどうしてるんですか?」っていうのを聞いたりしてます笑
SHUNSUKE:
みんな何時に起きてるのか気になりますよね。SNSを見ると、昨日あんなに一緒に遊んでたのに朝はやくからもう動いてる!って焦ります笑
ZUKIE:
お酒のうまい付き合い方とか、あと日光をいかに浴びてるか気になりますよね。やっぱりヘルスケアはDJという仕事において、大事なことだと思うんです。
これからのクラブシーンに願うこと
SHUNSUKE:
これからの日本のシーンに願うことや望むことを教えてください。
ZUKIE:
クラブDJの感性を持った人間がプロデュースなりで関わった音楽がちゃんとヒットして、それがダンスフロア以外の場所でも流行って、いずれMステに出たりポップスになれば良いと思います。クラブからスーパースターやヒット曲が生まれるのは久しくないと思うんです。
音楽を作る側の人間としてそんなヒット曲を出したいし、みんなで出していくようなシーンにしたいですね。どこに行ってもその曲がかかってるのは単純にアツいじゃないですか。
SHUNSUKE:
日本国内だけじゃなくて世界にも通用する作品ということですよね。
ZUKIE:
そうです。最近はラッパーにはたくさんスターがいますけど、昔でいうm-floのようなナイトクラブ畑から羽ばたいてメインストリームのポップスフィールドでも活躍するアーティストが国内では少なくなってしまったなと感じていて。彼女たちの曲は事務所もちゃんとクラブ用にプロモーションして、クラブミュージックとして流行らせてましたよね。
SHUNSUKE:
クラブからのヒットが見込めたアーティストでしたね。
ZUKIE:
それが見事に成功してMステに出るところまで行けたわけじゃないですか。そういうふうに音楽のインフラの一部として、もっとクラブが機能してほしいですね。クラブ発でスーパースターとかスーパーヒット曲が出ると、いろいろ変わるような気がします。例えば、もっと昼間の世界の人たちが夜の現場にも来て、いろいろ感じてくれたりするきっかけにもなるかもしれません。
SHUNSUKE:
今みたいな時代だから、そういうスターが必要なのかもしれないですね。例えばMISIAとか。
ZUKIE:
MISIAさんなんてまさにそうですよね。ちゃんとクラブでプロモーションする意図があったからこそ、現場でも本当によく聴きました。でもいまは、みんなの趣味嗜好が細分化してるから本当のヒット曲みたいなのは非常に生まれにくいんですよね。Lil Uzi Vert(リル・ウジ・ヴァート)の『Just Wanna Rock』もヒップホップの現場ではバンガーだけど、それ以外のお店ではそこまで大きな爆発にならないという話も耳にしました。
SHUNSUKE:
ヒップホップだけで言うと、そういう曲は相当多いです。
Lee:
棲み分けがされてるんですね。
SHUNSUKE:
2010年のDJ Khaled(DJ キャレド)の『ALL I Do Is Win』とか、ああいうのはどこでも聴いたし、もしかしたら喫茶店でもかかってたかも。
ZUKIE:
垣根を飛び越えちゃうやつですね。
SHUNSUKE:
あとはDrake(ドレイク)の『God’s Plan』とか。時代のゲームチェンジャーみたいな人じゃないと、世界的にも大ヒット曲は生まれづらいというか。Jay-Z(ジェイ・Z)の『Empire State of Mind』とかKanye West(カニエ・ウェスト)の『Good Life』みたいな、どこでも必ずかかる曲が日本から生まれたら最高だなと思います。
ZUKIE:
日本国内だけでもクラブアンセムみたいな曲が生まれるといいですよね。クラブの現場がもっとクリエイティブになるとおもしろいと思います。