ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人にインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月は山口県・下関市を拠点に農家ダンサーとして活動するノッポさんに4回に渡ってお話を伺います。
過去回はこちら→「レモン農家とダンサーの両立!? 唯一無二の働き方のダンサー・ノッポとは?」
サラリーマンとダンサーの二足の草鞋。ノッポが考える両立のコツとは?
レペゼン:
サラリーマンとダンサーの両立で良かった点について教えてください。
ノッポ:
色々あると思いますが、一番は定期的にお給料が入ることですね。田舎にいるとダンスバトルやレッスンで遠征することが多いので、当時の収入は全てダンスに消えましたね笑
レペゼン:
会社員を辞めて、ダンス一本で生活したいと思ったことはありましたか?
ノッポ:
ありましたが、僕は当時ダンスでは全く結果が出てなかったので。会社員の収入があった方がいろんなイベントには行けるなと思ってました。
レペゼン:
とはいえ休みの日にダンスのイベントに行って、平日は朝から働いてるわけですよね?なかなか大変ですよね。
ノッポ:
そうですね。全て頑張るのは無理だったので、ダンス8割、サラリーマン2割でいくと決めてました。
レペゼン:
会社的にもそれで何とかできていたんですか?
ノッポ:
業種にもよるとは思うんですが、自分の場合はダンスを頑張るおかげで仕事の能力も上がって、2割でもある程度はできるようになってた気がします。
ダンスのために適度に力を抜きながら、全力の2割で頑張ってましたね。
レペゼン:
大事ですね。
両立を考えてる方にはすごく良いアドバイスになると思います。
ノッポ:
参考になれば嬉しいです。覚悟を決めた2割ですね。
ゆるい2割じゃないです。本気の2割なんで笑
伸び悩む人に伝えたい、引き算の思考とは?
レペゼン:
ダンスを初めた当初はまったく結果が出なかったおっしゃってましたが、どのくらいの期間なかなか結果に結びつかなかったのでしょうか?
ノッポ:
21歳頃から本気でダンスを始めたんですが、30歳までダンスバトルで1回も予選を上がったことがなかったです。これって結構異例の事態で。
レペゼン:
気持ち的にかなりしんどいですよね。
ノッポ:
そう。
自分はセンスないなって思うわけじゃないすか。
それで30歳の時に不意にダンス辞めようかなって思ったんです。要はもう仕事とか結婚とか理由がいっぱい出てくるじゃないですか。
レペゼン:
確かに。
ノッポ:
で30歳になって最初のダンスバトルがあったんですよ。
そこで結果が出なかったら、もうダンス辞めようと決めてたんです。
それでめちゃめちゃ練習して、トレーニングも鬼のようにして参加するんですが、思いっきり予選落ちするんですよね。
レペゼン:
マジですか…
ノッポ:
もう落ち込むどころじゃなかったです。本当にここで人生が終わるみたいになって。そのまますごい状態で家に帰ったら、師匠のMajestic-5(マジェスティック・ファイヴ)のMALさんから電話がかかってきたんですよ。
レペゼン:
さすが師匠、ナイス・タイミングですね。
ノッポ:
それで「POP LOCK BOX」っていう、世界から有名ダンサーが集まるイベントを観に来いよって誘ってもらったんです。MALさんは日本代表として今のDA PUMPのKENZOさんなどと一緒に出場されてて。
レペゼン:
すごい!
ノッポ:
それで藁にもすがる思いで急遽東京まで行って、その世界大会を始めから終わりまで全部見たんです。
そしたら見終わった瞬間に指先と足先から順番に細胞が裏返ってた感じになって、自分に何が足りなかったかわかったんです。それ以降完全に自分のダンスが変わって。大きなバトルでも予選落ちが無くなりました。
レペゼン:
えー!一体何が変わったんですか?
ノッポ:
その大会は世界各国からすごいダンサーが集まってたんですけど、その全員が誰1人として同じ踊りをしてなかったんです。つまり正解がなかったんです。
レペゼン:
ふむふむ。
ノッポ:
でも僕はそれまでずっと正解を見つけようとしてたんです。
周りは正解に近づいてるから結果が出て、僕は正解に気づけてないから、結果が出てないんだって思ってました。でも実際は違うんですよ。
60億人地球人がいたら、60億分の1として踊るっていうことが正解なんだってことに気づいたんです。
レペゼン:
なるほど!!
自分のスタイルを作るってことですね。
ノッポ:
そう。で、そのスタイルを作ることに関して、僕もそうだったんですが、みんな足し算をしがちなんです。でも実は大事なのは引き算なんです。
レペゼン:
というと?
ノッポ:
例えば学校のテストの点数って勉強するほど10点、20点と上がっていくじゃないですか。テスト感覚で物事に取り組む人は意外に多いのですが、何かを生み出そうと思ったら方法は逆なんです。覚悟や熱量を持って物事に取り組むと余分なものが取り除かれて、ゼロの状態に向かっていくんです。それが転じて1になった時に新しいものが生まれるんですよ。
レペゼン:
めちゃくちゃおもしろいですね。
ノッポさんも余計なもの引き算していって、自分のスタイルを見つけることができたってことですよね?
ノッポ:
めちゃくちゃ引き算してますね。肩書きは農家ダンサーで足し算ですが笑
この考え方に至らなかったらいまだに何者にもなれてなかったと思います。
世界を変えた一曲「Rapper’s Delight」を作ったのは実はラップ素人集団!?
レペゼン:
サラリーマン時代後半に励まされた曲を教えてください。
ノッポ:
The Sugarhill Gang(シュガーヒル・ギャング)の「Rapper’s Delight」ですね。
レペゼン:
なぜこの曲なんでしょうか?
ノッポ:
『文化系のためのヒップホップ入門』という本を読んで知ったこの曲の裏話が好きで。
シュガーヒル・レコードの社長だったSylvia Robinson(シルヴィア・ロビンソン)が「ラップの曲作りたいからラップできる人を集めてきてよ」って息子に頼むんです。シルヴィアは当時ストリートでムーヴメントになってきていたラップを音楽業界に持ち込もうとしてて、知名度やスキルのあるラッパーたちを呼んできてもらうつもりだったんですが、息子はラップ経験もないただの友達を連れてきちゃうんですよね。それがシュガーヒル・ギャングのWonder Mike(ワンダー・マイク)、Master Gee(マスター・ジー)、Big Bank Hank(ビッグ・バンク・ハンク)だったわけで。
レペゼン:
おもしろいですね笑
ノッポ:
それでその素人たちにラップさせたのが「Rapper’s Delight」なんですよ。それが爆売れしたんですよね。それを見たGrandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)とかあの辺の人たちも「ラップいけるな」ってなったらしくて。
僕は田舎でダンスの環境に恵まれてない場所にずっといたけど、新しいカルチャーってそういうふうにして生まれるんだなって思ったときに、その方がおもしろいなと思ったんすよね。
レペゼン:
ストリートの文化とかアートってそういうことですよね。
ノッポ:
そうそう。それまでのキャリアがどうこうじゃなくて、やりたいようにやって、結局後で形になってる。偉大とされている物事の始まりって結構こういうことなんだろうなって思えたんですよね。
レペゼン:
確かに。技術とか経験に裏打ちされてないと駄目なんじゃないかっていう固定概念ってあるけど、それだけじゃないってことですよね。
ノッポ:
そうですね。この話を知った時は自分はまだダンスで開花してなくて、いつかはやってやるという気持ちもあったので、このエピソードにすごく勇気をもらえましたね。