@新宿三丁目
アスファルトに染み付いたヤニとアルコールを纏った細かな埃が、柔らかい太陽の光と優しい秋風に取り込まれて空気中を舞っている。騒いで飲み散らかした夜の翌朝、扉を明けて広がる薄ぼんやり白んだ視界はいつ見ても美しいと感じてしまう。
新宿三丁目のバーで夜勤を終えたMasakiはいつもの休憩場所である雑居ビルの裏でキャメル・クラフト・メンソールを燻らせていた。
滑らかな煙とメンソールの涼感がくせになる相棒を味わいながら、昨夜のお店のことを考える。予想以上の来客でバタついた時間もあったが、なんとかお店を回すことができた。
「今日もお疲れ様」
煙と会話しながら、Masakiは自分自身を労う。今日も白く霞む新宿の朝は、眠らない街の住民たちの身体と心から吐き出された紫煙をいつにもまして優しく受け入れていた。