映画 『SKIN/スキン』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.59

ヘイトタトゥーを脱ぎ捨てる。白人至上主義青年の壮絶な更生物語。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは映画『SKIN/スキン』。ヘイトと暴力に明け暮れていた日々から一転、白人至上主義グループから抜け出す青年を描いた実話を基にした物語だ。

『SKIN/スキン』ってどんな映画?

白人至上主義グループの仕切る夫婦に拾われ、筋金入りの差別主義者に育てられたブライオン。頭をスキンヘッドにし、体も顔もタトゥーだらけの風貌で、ヘイトを撒き散らし暴力に満ちた生活を送っていた。しかしある日、3人の娘を育てるシングルマザー・ジュリーと恋に落ちたことで我にかえり、人生をやり直そうと決意する。だが当然、組織を抜け出すことは許されず…。

『SKIN/スキン』を観るべき5つの理由

①アメリカの人種問題を描いた実話の物語

主人公のブライオン・ワイドナーは実在の人物。白人至上主義のレイシストだった彼が自分の行いを悔い改め、体と顔に無数に入ったタトゥーの除去する過程を追ったドキュメンタリードラマ『Erasing Hate』を観た監督が、ブライオンの映画を撮ることを決意して『SKIN/スキン』は作られたんだ。

アメリカは多人種が暮らす国であり、人種差別グループは1000以上に及ぶと言われている。人種問題はいまだにアメリカの大きな社会問題の一つだ。だからこそ、ひとりでも更生することには大きな意味がある。奇跡のような実話を映画にすることで「人はいつでも変われる」という勇気を与えてくれる、そんな映画だ。

②監督はホロコーストの生き残りの子孫

監督のガイナ・ナティーブはイスラエル出身のユダヤ人。祖父が人類史上最悪の大虐殺、ホロコーストの生存者だったガイナは、幼い時に祖父からホロコーストの恐ろしさを日常的に聞かされていたそう。彼はブライオンの更生ドキュメンタリーに感銘を受け、ブライオン本人から映画化する許諾を獲得。

しかし映画に賛同してくれるプロデューサーをなかなか見つけられなかったガイナは、制作のチャンスを掴むために、まず短編映画として『SKIN』を制作することに。本作とは登場人物や内容は違うけどテーマは同じ人種差別を扱ったこの作品は、2019年のアカデミー賞・短編実写賞を受賞。長編『SKIN/スキン』を制作する足がかりになったんだ。

その背景には平気で人種差別発言をするトランプ大統領の誕生や、白人至上主義グループの行き過ぎたヘイト行為によって、アメリカの差別問題が取りざたされていた流れがあった。ホロコーストを経験した彼の祖父も脚本を読んで「絶対にこの映画を作るべきだ」と背中を押したそう。白人至上主義グループの実態をリアルに描き、人種差別の歴史を繰り返す現実に一石を投じたんだ。

③本当の家族を築く物語

生まれながらの人種差別主義者はいない。人間が教育によって偏った思想が形成されていく危うさを、この映画では描いている。劇中で白人至上主義グループに勧誘された少年が、グループに入った理由は「お腹が空いていたから」。親から捨てられた子においしいご飯と住む場所を与えられることで擬似家族を作り、差別主義者へと洗脳していくのが白人至上主義グループの手口だった。

主人公のブライオンがグループから抜け出すために働き口を求めるが、FBIの危険人物リストに名前が載っているため、仕事を紹介すらされない。一度グループに入ってしまうと生活のすべてを預けることになり、簡単に抜け出すことができない仕組みだ。

リーダーの夫婦はグループメンバーを子供のように可愛がり、「パパ、ママ」と自分たちを呼ばせる。しかしイスラム教徒のモスクに火をつけ殺人を強要するなど、自分たちの理想を叶えるための駒としかメンバーを扱っていない。ブライオンはシングルマザーのジュリーと出会うことで、本当の愛、本当の家族の形を知り、グループを抜け出すことを決意するんだ。「家族」が欲しかっただけの子供の弱みにつけこむ白人至上主義グループの卑劣さを浮き彫りにすることで、家族とは何か、愛とは何かを考えるきっかけを与えてくれる。

 

④役に入り込んだ俳優たち

ハードな内容の『SKIN/スキン』が優しい気持ちになれる人間ドラマになっているのは、メインキャストのふたりの演技が真に迫っているから。

ガチガチの白人至上主義のネオナチ青年ブライオンを演じたジェイミー・ベルは、役作りのために体重を15キロほど増やし、タトゥーのメイクをしたまま生活をするなど、ブライオンと同化していった。そのおかげで撮影終了後に役が抜けるまで、2ヶ月かかったほど。それほど役に入り込むことで、激しい葛藤に揺れ動くブライオンを演じきった。

ブライオンの救世主であるシングルマザーのジュリーを演じたのは『パティ・ケイク$』のダニエル・マクドナルド。子供を第一に守りながら、ジェイミーを深い愛で包む魅力たっぷりの役柄がめちゃくちゃサマになっていた。

他にも演技派の役者さんたちが出演しているから、ぜひチェックしてみてね。

⑤いつでも人生はやり直せる

人間は変わることができるのかが、本作の大きなテーマだ。これまでの自分の行いを悔い改めたブライオンは、顔や体に掘った無数のタトゥーを16ヶ月の歳月をかけて綺麗に消し去った。入れるほど仲間に尊敬されたタトゥーは、入れる時よりも消す方が3倍痛い。その痛みはヘイトと暴力を撒き散らした彼が、背負うべき痛みだった。

ブライオンの行いは決して消えるものではないが、誰にでも人生をやり直すチャンスはある。そのためには、かつてモンスターだった人を受け入れることができるのか、周りの人たちの覚悟も試される。

人種差別主義者を理解できない存在として扱わずに、彼らのバックボーンを想像し、まずは話し合うことが大切なのかもしれない。皮を剥げば、人間はみんな同じはず。肌の色や生まれによって差別されることのない世界になるまで諦めずに、対話は必要だ。そんなことを考えるきっかけを与えてくれる『SKIN/スキン』をぜひ観てみてね。

 

画像出典元:コピアポア・フィルム

配信先:Netflix

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