目 次
カルチャーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人達がいる。
彼らは何故、今の仕事を選んだのか?このコーナーではカルチャーに関わり続けるプレーヤーたちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。
今回はB-Boy編。DJ SHUNSUKEのライター仲間であるB-BoyのTamakiが切り込みます。
ゲストは、圧倒的な音感とスキルで表現されるスムースでリズミカルなフットワークと、創造性溢れるムーヴでシーンで絶大なプロップスを得るB-Boy Tenpachiさんです。
脅威の音感と感性でブレイキンの可能性を広げるダンサー、TenpachiのB-Boyライフ
レペゼン:
自己紹介をお願いします。
Tenpachi:
B-Boy Tenpachiです。36歳、埼玉県出身で、普段はグラフィックデザイナーとダンサーとして活動しています。
レペゼン:
ありがとうございます。まずブレイクダンスを始めたきっかけについて教えてください。
Tenpachi:
多分2002年、中学生3年生の時にテレビ番組の「めちゃイケ」で岡村隆史さんがブレイクダンスを踊っているのを見たことですね。でも当時は友達と昼休みに真似する程度で。本格的に始めたのは、2006年、大学のダンスサークルに入った時です。
レペゼン:
そうなんですね!
高校時代はブレイクダンスに取り組んでいなかったんですか?
Tenpachi:
高校ではサッカー部に所属していて。でもダンスは好きだったので、文化祭などで踊る際は振付けを担当することが多かったです。あと一応独学でも練習はしていて。チェアとトラックスは高校時代に独学で覚えました。ISOPPさんや群青さんの映像を見て、練習していましたね。YouTubeが普及する前だったので、VHSのビデオを何度も繰り返し見て研究していました。
レペゼン:
VHS、懐かしいです。大学はどんな感じだったんですか?
Tenpachi:
大学ではダンスサークルに入って毎日仲間と一緒に練習していました。
最初はストリートで踊るのが怖かったので、まずは大学内で技術を磨いてました笑
あと、時々大学に「廻転忍者」のミッキーさんが来てくれて。基礎的な技を教えてくれていたんです。それはめっちゃありがたかったですね。
レペゼン:
「廻転忍者」さんは当時すごく勢いありましたよね。バトルはいつ頃から参加するようになったんですか?
Tenpachi:
大学2年生の頃かなと。同い年のメンバーが外部のバトルに出始め、2年生からは頻繁に参加するようになりました。最初はフリースタイルバトルが多かったです。振り返ると当時の踊り方は観客を沸かせることだけを重視して踊っていたので、B-Boyとしては微妙だったかなと思います笑
本格的にブレイキンのバトルに出始めたのは、「シティーハンター」というクルーに入った後で、大学の3年生ぐらいからですね。
レペゼン:
結果はどうだったんですか?
Tenpachi:
本当に全然でした。全然予選も上がれなかったんですよ。クルーのメンバーはみんな経験豊富で、結果を出してるやつもいたのですが、自分個人としてはなかなか結果が出ず、ずっと落ち込んでいました。めちゃくちゃバトルに出たんですが、めちゃくちゃ負けて笑
ただ大学卒業前ぐらいにやっと予選で上がれて、準優勝できるようになって。そのあたりで少しずつ自信がついていった感じですね。
レペゼン:
バトルで負けると結構しんどいですよね。
Tenpachi:
何で勝てないんだろうと悩んで、泣きそうになることもありましたね。投げ出したくなるぐらいでした。泣きそうになってジャッジに「どうすればいいですかね?」って相談していたこともありましたね笑
結局自分で模索するしかないんですけどね。
渡米のきっかけはディズニーランド!?
レペゼン:
大学卒業後は就職されたんですか?
Tenpachi:
就職活動もしていたんですが、全然しっくりこなくて。「普通に一般企業に就職するのってどうなんだろう」と思ってたんです。そんな時にたまたま見つけたのが三越がやっていたディズニーのインターンシッププログラムで。
レペゼン:
ディズニーのインターンシップ!?
Tenpachi:
フロリダのディズニーランドで、日本文化エリアのレストランやホテルで働くスタッフ採用のためのインターンシッププログラムがあって。
アメリカには昔から興味があったのでぜひやってみたいなと。それでまず英語を学ぶために日本で1年ぐらいお金を貯めて、アメリカの語学学校に行ったんです。
レペゼン:
良いですね!
Tenpachi:
ただ結局、語学学校よりもダンスを通じて英語を話す機会が多く、気づけばストリートでダンスばっかりやってました笑
レペゼン:
そんなもんですよね笑
Tenpachi:
でも最初は本当に英語をひたすら勉強してたんですよ笑
いつのまにかストリートに入り浸るようになって。ディズニーのインターンシップのプログラムも帰国後に試験を受けましたが、最終面接で緊張して言葉が出なくて落ちちゃいました笑
ただその時にはダンスへの情熱が大きくなっていて、「ダンス一本でいこう」と思っていたので、改めてダンスで食っていくことをそこで決意した感じです。
レペゼン:
良いですね。アメリカでのダンスの経験はどんな感じだったのですか?
Tenpachi:
自分の中で大きなターニングポイントです。B-Boyは技術だけでなく、スタンスや振る舞いも重要だと気づきました。例えばサイファーで待っている時の仕草や構え方まで、すべてが「見られている」という意識を持つようになりました。それが帰国後の活動でも大きな武器になりましたね。あとアメリカでは、ベーシックができていないのに自信満々で踊る人も多い。それも結局アティチュードがすごく大事ってことですよね。即興でバトルが始まる「コールアウト」という文化もあってそこで何度もバトルをして、何度も悔しい思いをして。でも、それが自分を鍛えてくれましたね。
好きなことで食べていく。Tenpachiのやり方。
レペゼン:
ダンス一本でやっていこうと決めたということですが、特に当時はダンスだけで食べていくのは大変だったんじゃないですか?
Tenpachi:
めっちゃ大変でしたね。最初はアルバイトとレッスンを掛け持ちしながらやっていました。かなりレッスンはしてましたね。
レペゼン:
デザインのお仕事も当時からされていたとか?
Tenpachi:
そうです。友達とアパレルを作ったりしたのがきっかけで。デザインに興味を持って。それでアルバイトでシルクスクリーンの会社で働いて、デザインソフトを学んだりしたんです。徐々に会社らしくなっていったのが、2015年から2021年くらいの間ですかね。最初の頃は事務所もなくて、友達と一緒に2人で始めた感じでした。それが少しずつ事務所を構えるようになっていった感じですね。
レペゼン:
その頃もレッスンやバトルにも出ていたんですよね?
それだけ活動していると、相当ハードだったんじゃないですか?
Tenpachi:
んー、当時はハードだとあまり感じなかったですね。ダンスを続けることが当たり前だと思っていたので、ひたすら練習して出場する、という感じでした。それこそ、レッドブルのイベントとかが一番のモチベーションになっていたので、空いた時間は全部練習に使ってましたね。
永遠の論争「スポーツか、カルチャーか」。でも結局オレたちはオレたち
レペゼン:
最近はブレイキンがオリンピック種目になったこともあり、これまでとは違う大きな規模での広がりを見せています。最近のシーンの状況をどう思いますか?
Tenpachi:
まず全体としては、すごくポジティヴに捉えてます。最初はオリンピックでブレイキンが取り入れられることに対して、「ダサくなっちゃうんじゃないか」という懸念が少しありました。
でも実際には、オリンピック競技としてのブレイキンはとても面白かったし、素晴らしいものでした。
あの場が成功したのは、本当にブレイキンを愛している方が集まって、しっかりとした形で場を作り上げたからだと思っています。ただ自分たちはカルチャー寄りの立場なので、オリンピックがどうであれ自分たちのやるべきことをやるというスタンスですね。
レペゼン:
間違いないですね。
これからの若い世代に対して、どんなメッセージを伝えていきたいですか?
Tenpachi:
メッセージというよりは、今の自分の考えや方向性を共有したいです。
ブレイキンは、もともとバトルが中心ではなかったけれど、今では20年以上にわたってバトルがメインの形になっていますよね。特に最近ではオリンピックの影響もあり、「コンペティター」として注目される人たちが増えてきました。でもその方向性だけだと、バトルシーンに興味を失った人たちはダンスを辞めてしまう現状があります。ただ、本当はそれだけではないはずです。
レペゼン:
確かに。元々はコンペティションというよりもカルチャー、そしてコミュニティですよね。
Tenpachi:
そうなんです。やっぱり今のバトル一辺倒の方向性に違和感を持つ人たちも増えてきていると思います。なのでバトル以外の部分でのブレイキンの魅力を伝えていきたい。
僕自身はブレイキンが本当に好きなので、辞めるのではなく、別の形でアウトプットできる方向性を示していきたいですね。
レペゼン:
すごく共感します。実際、今取り組んでいることはありますか?
Tenpachi:
今は、自分のダンスを現代に適した形でアウトプットする方法を模索しています。具体的には動画を使うことで自分のダンスを伝えたいのですが、編集をしすぎるとダンスそのものが見えなくなってしまうので、そこのバランスを模索してますね。最終的には、それが、ブレイキンの価値を広げることにつながると信じています。僕は今、そういうことを学びながら模索していますが、若い人たちは新しい挑戦を恐れず、どんどん自分たちなりの価値観を作り出していってほしいと思います。
レペゼン:
めちゃくちゃかっこいいですね!これからが本当に楽しみです。
今回は本当にありがとうございました!
Tenpachi:
ありがとうございました!