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WHAT’S UP, GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」。Vol.367の今回は先日、膵臓がんのため亡くなったネオ・ソウルのパイオニア、D’Angelo(ディアンジェロ)追悼特集。アラフォー、アラフィフ世代の音楽ファンは彼のメロウでソウルフル、そして最高にグルーヴィーな歌声の虜になった人も多いはず。
本特集ではディアンジェロの生い立ちを辿りながら、彼が世に送り出した代表曲を振り返りたい。ヴァージニアが産んだ偉大なシンガーに敬意を表して。
生い立ち
1974年、ヴァージニア州リッチモンド・サウスサイドで生まれた“ディアンジェロ”ことマイケル・ユージーン・アーチャー。お父さんはキリスト教・ペンテコステ派(神の存在を実感する宗教的体験(聖霊体験)の存在を提唱するグループ。神との結びつきを育むために、歌やダンスなどで激しく感情を昂らせることもある)の牧師だったということで、宗教的に厳格な家庭で育ったんだって。3歳にして独学でピアノを弾くなど幼少期からその才能の片鱗を見せていたディアンジェロは、18歳の頃には、アーティストの登竜門とされるニューヨーク・アポロ・シアターのアマチュア・ナイトに3回連続優勝。音楽に専念するためにニューヨークに移住し、プロのシンガーになるための活動を始める。
世界に衝撃を与えたファーストアルバム
『Brown Sugar』
ニューヨークに移り住んで、しばらくは作曲などの裏方仕事を行っていたディアンジェロだが、Black Men United(ブラック・メン・ユナイティッド)「U Will Know」への制作参加などで業界内での評判を高め、シンガーとしてのデビューすることに。1stアルバム『Brown Sugar(1995)』はBillboard Top R&B Albums チャートで最高4位を獲得するヒットを記録し、一躍シーンにその名を知らしめることになる。ディアンジョロ追悼特集、1曲目に紹介するのは、そんな彼のキャリアの転換点となった名盤『Brown Sugar』から代表曲「Lady」。
「Lady(1995)」
I pick you up every day from your job
毎日君を仕事場まで迎えに行くEvery guy in the parking lot wants to rob me of my girl
駐車場にいる男たちはみんな、僕から彼女を奪おうとするんだAnd my heart and soul, and everybody wants to treat me so cold
そして心と魂までも奪おうとして、みんなが僕に冷たいのさBut I know I love you and you love me
でも、僕は君を愛してるし、君も僕を愛してるってわかってるThere’s no other lover for you or me
他に恋人なんてありえないよ
唯一無二のバリトンボイスと脅威的な高音コントロールから生み出される歌声はもはやこの世のものとは思えない美しさ。紡ぎ出す音の一つ一つに最高に心地良いグルーヴを感じさせるディアンジェロの楽曲は当時の音楽シーンに大きな衝撃を与え、『Brown Sugar』は大ヒット。リリースの翌年にはプラチナム・レコード認定されることになる。
曲を書けないスランプ時期を経て
名盤『Voodoo』へ
『Brown Sugar』のリリースの後、ディアンジェロは曲を書きたくてもアイデアが浮かんでこない、書けない、“ライターズ・ブロック”と呼ばれるスランプに落ち入る。その辛い時期を乗り越えて、2000年にリリースしたのが彼の最高傑作とされる2nd『Voodoo』だ。初登場でビルボード200チャート1位を獲得した『Voodoo』はその後33週間連続でチャートに留まるという大記録を達成、翌年の2001年には第43回グラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞し、“ネオ・ソウル”というジャンルの最高到達点として音楽ファンから絶大な支持を受けるんだ。今回はそんな名盤『Voodoo』から J Dilla(J・ディラ)が制作参加した「Feel Like Makin’ Love」を紹介。
「Feel Like Makin’ Love(2000)」
Strollin’ in the park
公園を散歩して
Watchin’ winter turn to spring
冬が春に変わるのを眺めながらWalkin’ in the dark
暗闇を歩いてWatchin’ lovers do their thing
恋人たちの様子を眺めてるThat’s the time
そんな時I feel like makin’ love to you
君と愛し合いたくなるんだ
ソウル・シンガー、Roberta Flack(ロベルタ・フラック)の1974年のクラシック「Feel Like Makin’ Love」をカバーした一曲。1990年代から2000年代にR&Bやヒップホップを聴き始めた人はこのディアンジェロverで原曲を知ったという人も多いんじゃないかな?プロデューサーにJ・ディラ、ドラマーにthe Roots(ザ・ルーツ)のQuestlove(クエストラブ)、そしてシンガーにディアンジェロという90年代〜2000年代の音好きにはドリームチームと言える布陣で組み上げるグルーヴはもはや異次元の領域。ファンク、ソウル、R&Bといったブラック・ミュージックの各ジャンルの要素がこのアーティストたちにしか導き出せない方程式で掛け合わされた極上のラブソングだ。
精神的苦闘、親友の死、依存症との戦い
大成功を収めたセカンド『Voodoo』だけど、一方でディアンジェロのキャリアに暗い影を落とすことにも。実は『Voodoo』収録の「Untitled (How Does It Feel)」のMVにおけるディアンジェロが上半身裸になって歌うという映像がかなりインパクトが強く、音楽性ではなく、ただの”セクシーな裸の男”というパブリック・イメージが一般に広がってしまったことにディアンジェロ本人はすごく気を落としていたよう。なんとかそのイメージを払拭しようとアーティストとしての活動に力を入れていたディアンジェロだが、親友であったMTVのフレッド・ジョーダン氏の自殺や付き合っていた彼女との別れなども重なり、アルコールやドラッグに依存するようになってしまう。
他アーティストの作品参加、
そして3rd アルバム『Black Messiah』へ
2000年代前半、『Voodoo』の成功による人気の一方、様々な困難からなかなか自身の楽曲制作が手につかない状態が続いていたディアンジェロ。ただその唯一無二の歌声から他アーティストからのオファーは多く、J ・ディラ「So Far To Go (2006)」、Q-Tip(Q・ティップ)「Believe (2008)」など名作に参加。2000年代後半には少しずつ音楽制作に向かえるようになり、2008年にはコンピレーションアルバム『The Best So Far』をリリース、2012年にはヨーロッパツアーを実施する。そして『Voodoo』から14年の歳月を経て2014年にリリースしたのが、3rdとなる『Black Messiah』だ。ディアンジョロ追悼特集、ラストに紹介するのは、本当に残念ながら彼の遺作となってしまった『Black Messiah』から「Prayer」。
「Prayer(2014)」
I know that he will try to harm you
彼はあなたを傷つけようとしてる
And if you care
もし、あなたが気にかけてるならI know that you will make it to the promised land, oh
わかってるよ、きっと約束の地に辿り着くことができるってBut you gotta pray, you gotta pray
でも君は祈らなきゃいけない、祈らなきゃいけないんだOh, you gotta pray for redemption, Lord
救いを求めて祈らなきゃいけない、主よLord, keep me away from temptation
主よ、私を誘惑から遠ざけてくださいDeliver us from evil
悪から私たちをお救いください
『Voodoo』で放った眩し過ぎるほどの輝きと、その強すぎる光によって生み出された影。その中で苦しみ、もがき続けたディアンジェロが神に捧げた祈りがこの歌には刻まれている。晩年は膵臓がんと闘病しながら、4thアルバムの制作に取り組んでいたというディアンジェロ。その早すぎる死にローリン・ヒルやビヨンセ、ジェイミー・フォックスなど彼に影響を受けた多くのアーティストからも惜しむ声が上がっている。本当に悲しいことだけれど、彼の音楽と、あの誰にも真似できない美しい歌声が僕たちの心に届けてくれる胸の高鳴りはこれからもずっと変わらない。どこまでも純粋で、少しでも触れたら壊れてしまそうなほどに繊細で、そしてこの世界のどんな音色よりもグルーヴィーでソウルフルな彼の音楽は、これからも僕たちの心に灯をともし、前に進む勇気を与えてくれる永遠の“ネオ・ソウル”だ。
Rest in Peace, D’Angelo
【歌詞出典元】Genius
*訳は全て意訳です。
こんなスラングも知ってる?
lazy
怠けている

insane
狂ってる、狂気の

dope
ヤバイ、イケてる
