今回紹介するスラング
番外編
ヒップホップ名盤特集『Arrested Development - 3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life of』
WHAT’S UP, GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.133はヒップホップ名盤特集。今回取り上げるのは90年代オルタナティブ・ヒップホップの金字塔、Arrested Development (アレスティッド・ディヴェロップメント)の「3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life of」。
アレスティッド・ディヴェロップメントはジョージア州アトランタのアートスクールに通っていたSpeech(スピーチ)とDJ Headliner(DJ ヘッドライナー)が作ったグループ。今回紹介する1992年リリースの「3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life of」は彼らのファースト・アルバムだ。 このアルバムで歌われているのは、アメリカに生きるアフリカン・アメリカンの人々の日常。スピーチが出会う街の人々や彼の家族についての愛や哲学をスピリチュアルな表現で、まるで物語の語り部のようにラップするスピーチのスタイルと、アップテンポでアフロセントリックなビートが組み合わさった「3 Years…」はギャングスタラップが席巻していた当時のヒップホップシーンの中で大きな話題を呼び、アレスティッド・ディヴェロップメントはラップ・アーティストとして史上初めてグラミー賞の最優秀新人賞を受賞することになったんだ。 今回はそんな「3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life of」から3曲をピックアップして、リリックを紹介していくぜ!
まずはホームレスの男性との交流について歌った「Mr.Wendal」のリリックをチェキ!
「Mr. Wendal」
Mr. Wendal has freedom ミスター・ウェンダルは自由なのさ。 A free that you and I think is dumb 君やオレが考える自由じゃない。 Free to be without the worries of a quick to diss society 社会をすぐにディスる心配のない自由さ。 For Mr. Wendal’s a bum ミスター・ウェンダルは乞食だからね。 His only worries are sickness 彼の心配は病気だけ。 And an occasional harassment by the police and their chase そして時折ある警察からのいやがらせと追跡さ。 Uncivilized we call him オレ達は彼を文明的じゃないねて言うけど、 But I just saw him eat off the food we waste オレは見たんだ、彼が僕たちが捨てた食べ物を食べてるのを。 Civilization, are we really civilized, yes or no 文明とか、僕たちが本当に文明化してるとか、してないとか、 Who are we to judge オレ達にジャッジする権利なんてない。
「Mr.Wendal」はスピーチがアトランタのストリートの人々との交流にインスパイアされて作ったとされる1曲。リリックの内容は、スピーチがホームレスである“ミスター・ウェンダル”と交流していく中で、世界の新しい見方を学んでいくというものだ。 まずスピーチがホームレスであるウェンダルと交流して気づいたのは、ウェンダルは“Free to be without the worries of a quick to diss society(社会をすぐにディスる心配のない自由)”を持っているということ。ウェンダルはお金も仕事も持っていないけれど、その代わり彼はそういったことの心配もしなくていい。世の中には人の仕事や収入を気にしたり、自分と違う生き方の人を否定したりする人も多い。でもウェンダルはそういった世間とは離れたところにいるので、他人を否定したりすることもないてことだね。 社会のしがらみに囚われず、自由に生きているミスター・ウェンダルだけど、そんな彼を人は乞食だ、文明的じゃないと呼んでいる。ただ“文明的じゃない”ウェンダルが食べてるものは、彼を非文明的であると呼ぶ人々が捨てたものだ。 平気で食べ物を捨てる“文明的な”人々と、それを食べる“文明的じゃない”ウェンダル。 どちらがより文明化してるかなんてジャッジできないよね。 ちなみにアレスティッド・ディヴェロップメントはこの曲の収益の半分を、ホームレスの支援をする団体に寄付している。ストリートからインスパイアされて作った曲の売り上げをしっかりストリートに還元しているところもかっこいいぜ。
続いては、アレスティッド・ディヴェロップメントのデビュー曲であり、ビルボードR&B/Hip-Hop チャート1位を獲得した「Tennessee」のリリックをチェキ!
「Tennessee」
Lord, I’ve really been real stressed 神様、マジで最近つらいよ。 Down and out, losing ground どん底で、ボロボロさ。 Although I am Black and proud オレは黒人であることに誇りをもっているけど、 Problems got me pessimistic いろんな問題がオレを悲観的にさせる。 Brothers and sisters keep messin’ up オレのブラザーとシスターはみんなクソみたいな暮らしをしてる。 Why does it have to be so damn tough? なんでこんなに苦しくなきゃいけないんだよ? I don’t know where I can go どこへ行けるのかわからないよ。 To let these ghosts out of my skull オレの頭からこの亡霊を出ていかせるために。 My grandma’s passed, my brother’s gone ばあちゃんは死んで、兄貴もいっちまった。 I never at once felt so alone こんなにいっぺんに寂しさを感じたこたねぇよ。 I know you’re supposed to be my steering wheel あんたが俺のハンドルになってくれるんだろ。 Not just my spare tire スペア・タイヤじゃなくてさ。 But Lord I ask you 神様、お願いだよ。 To be my guiding force and truth オレを導く力になって、真実を教えてくれよ。 For some strange reason it had to be どういうわけだか、そうなるべきだったんだ。 He guided me to Tennessee (home) 彼はオレをテネシーに導いたんだ。 Take me to another place 他の場所に連れて行ってくれよ。 Take me to another land 他の土地に連れて行ってくれよ。 Make me forget all that hurts me つらかった全てのことを忘れさせてくれ。 Let me understand your plan あんたのプランを教えてくれよ。
この曲はスピーチが彼の祖母と兄が立て続けが亡くなった時に、その悲しみと向き合うために作った曲。おばあさんが亡くなった時に、スピーチはお兄さんとともにテネシー州で行われた葬儀に参加したんだけども、その後葬儀が行われたのと同じ週にお兄さんも喘息で亡くなってしまったようで、スピーチは最愛の家族を一度に2人失っているんだ。 家族の死というつらい現実に直面し、悲観的になったスピーチは神に“Why does it have to be so damn tough?(なんでこんなに苦しくなきゃいけないんだよ?)”と問う。スピーチは神が自分の人生の“steering wheel(ハンドル)”として自分をより良い方向へ導いてくれると思っていた。だけど神様が助けてくれるのは、本当につらい時だけ。それじゃまるで車の“spare tire(スペア・タイヤ)”じゃないかて言ってるわけだね。でも、スピーチは神様に自分を導いてくれとお願いする。彼はもう今どこにいくべきかわからないから。 家族の死というつらい出来事が彼をテネシーに導いたけど、もうどこか他のところへ連れて行って欲しい。そして、つらかった事を忘れさせて欲しい。そんな彼の気持ちが歌われているんだ。
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.133 、ヒップホップ名盤特集 「3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life of」のラストを飾るのは、「People Everyday」!
「People Everyday」
My day was goin’ great and my soul was at ease あの日は最高だった、魂も安らかだった。 Until a group of brothers started buggin’ out ブラザーたちのグループが調子に乗りはじめるまでは。 Drinkin’ the 40 oz, goin’ the nigga route 40ozを飲んで、“ニガー”の道を行く。 Disrespectin’ my black queen オレのブラック・クイーンを軽蔑してる。 Holdin’ their crotches and bein’ obscene 自分たちの股間をつかんで、卑猥に振る舞って。 At first I ignored them ‘cause see I know their type 最初は無視してたのさ。なぜならオレはあいつらのタイプを知ってるからな。 They got drunk and got guns and they wanna fight あいつらは酔っ払って、銃を持って、喧嘩したがる。 And they see a young couple having a time that’s good そし素敵な時間を過ごしてる若いカップルを見ると、 And their egos wanna test a brother’s manhood 自分たちのエゴを出して、男らしさを競おうと、 So they came to test Speech ‘cause of my hair-do スピーチのとこにやってくる。原因はオレの髪型さ。 And the loud bright colors that I wear (boom!) そしてオレが着てる賑やかで、明るい色。 I was a target ‘cause I’m a fashion misfit オレはターゲットだったのさ。なぜならオレは場違いのファッションをしてるから。 And the outfit that I’m wearin’ brothers dissin’ it そしてオレが着てる服をブラザーたちはディスってきた。 Well I stay calm and pray the niggas leave me be でもオレは落ち着いて、その“ニガー”たちに「放っといてくれ」とお願いしたんだ。 But they’re squeezin’ parts of my date’s anatomy でも彼らはオレの彼女の体のパーツを強く握ろうとしたんだ。 Why, Lord, do brothers have to drill me? なんでだよ、神様。ブラザー達はオレをぶっとばさなきゃいけないんだ? ‘Cause if I start to hit this man he’ll have to kill me, see オレがこいつをぶちのめし始めたら、こいつはオレを殺さなきゃいけない。 I am everyday people オレは普通の人なんだよ。 You see, I am everyday people わかるだろ、オレは普通の人なのさ。 I told the niggas please let us pass, friend オレはその“ニガー”たちに「通してくれ、友よ」って言ったんだ。 I said please ‘cause I don’t like killin’ Africans アフリカ系の人間を殺したくないんだって。 But he wouldn’t stop and I ain’t Ice Cube でも彼は止まらなかった。オレはアイス・キューブじゃないんだ。 But I had to take the brother out for being rude でも無礼な振る舞いをしたそのブラザーたちをどけなきゃいけなかった。 And like I said before I was mad by then オレがブチ切れる前に、 It took three or four cops to pull me off of him 3、4人の警官がやってきて、オレをあいつから引き離した。 But that’s the story y’all of a black man これ全部お前ら黒人の話だぜ。 Actin’ like a nigga and get stomped by an African “ニガー”みたいに振る舞って、アフリカンに踏みにじられるのさ。
「People Everyday」は「Tennessee」 の次にリリースされたアレスティッド・ディヴェロップメントのセカンド・シングル。元々「3 Years…」に収録されてた曲なんだけど、その後シングル・ヴァージョンとしてリミックスされて発売されると、世界中で大ヒット。USとUKのそれぞれのチャートでトップ10入りする快挙を成し遂げたんだ。 そんな「People Everyday」のリリックの内容はスピーチの地元であるミルウォーキーでの実際の体験を題材にしたストーリー。 ある日、彼女とのデートを穏やかに楽しんでいたスピーチなんだけど、そこへやってきたのが同じアフリカン・アメリカンの若者達。お酒を飲んで酔っ払っている彼らはスピーチが着ている色鮮やかなアフリカンテイストの服装やドレッドロックの髪型をバカにし、スピーチの彼女にもちょっかいをかけてきたりする。争いはしたくないと言うスピーチも自分の彼女に手を出されたら、さすがに黙ってはいられない。絡んできたやつらと戦おうとするけど、そこに警官がやってきて仲裁される。この実体験を基にしたストーリーの中で、黒人同士で争うことの虚しさとアフリカにルーツを持っていることへの誇りを“nigga(ニガー)”と “African(アフリカン)”という二つの言葉を対比させながら歌ったこの曲はアメリカに生きるアフリカ系の人々の心の痛みを強く聴く人に訴えかけてくる名曲だ。