こちらから見りゃサイテーな人、だが……。僧侶・西田稔光をヒップホップの虜にしたRHYMESTERのパンチライン

ヒップホップとの出会いは、あの青春ダンスムービーの金字塔

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今回のゲストは、栃木県足利市在住の僧侶・西田稔光(にしだ しんこう)さん。今回は、10代から大学時代までの思い出、そしてヒップホップとの出会いに迫ります。学生時代に彼の胸を打ったあるパンチラインは、僧侶になった今も胸に刻まれているんだとか。そんな青春の日々をスローバック!

前回の記事はこちら → 僧侶とヘッズの二刀流!?ヒップホップカルチャーを通して仏教の視点を伝える西田稔光

「死んだらどうなる?」
そのヒントが仏教にあるはず!

レペゼン :
稔光さんの地元の足利市はどんな街なんですか?

西田稔光 :
『田舎に泊まろう』が来るほど田舎でもなく、田んぼに囲まれているけど、行こうと思えばコンビニも映画館もショッピングモールもあるエリアです。めちゃめちゃ不便に感じることもなければ、かといってすごく便利でもない街ですね。

レペゼン :
ご実家がお寺ということですが、子どもの頃からお坊さんになることはなんとなく決まっていたんですか?

西田稔光 :
祖父はやはり「孫に継がせたい」という想いがあったみたいなんですが、一方で父は「なりたい人がなるべきだ」ということを言っていたので、「どうしたらいいんだ」って思ったりもしていました笑
でも2人が見せてくれていた僧侶という像は悪いものではなかったですね。

レペゼン :
そうなんですね。明確にお坊さんになりたいと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?

西田稔光 :
死の恐怖に対する何かしらのヒントがこの世界にはあるかもしれない」と思ったのがきっかけです。僕は小さい頃に、ふと「人はみんないつか死んじゃうんだ」って思って急に怖くなって、それからずっと死ぬのが怖かったんです。でも、大学生の時に祖父が亡くなった時、その顔がすごく穏やかで、それを見送る父も感情的になることなく、僧侶として見送るという姿勢を貫いていたんです。

レペゼン :
すごい話ですね。家族であり僧侶でもあるおじいさんとお父さんの姿を見て、ハッとされたんですか。

西田稔光 :
はい。それが大学を卒業して修行に行く直前だったので、そこで決意が固まりました。

ヒップホップカルチャーは突然に。
あるダンス映画に受けた衝撃

レペゼン :
ヒップホップとの出会いはいつ頃だったんでしょう?

西田稔光 :
中学生活の終わりに、映画『You Got Served』(*)を観たのがヒップホップとの出会いです。友達が保健室の頑丈な机に手をかけて逆立ちみたいなことをしてて、「何それ!?」って聞いたら「チェアーって言うんだよ」って教えてくれて。そこで興味を持った僕に、その友達が『You Got Served』を観せてくれたんです。そこからダンスを始めました。

※ … ロサンゼルスを舞台に、ストリートダンスに情熱を注ぐ若者たちを描いた青春ダンスムービー。白熱のクルーバトルのシーンは多くのダンサーに影響を与えた。

レペゼン :
懐かしい!笑
ヒップホップへの入り口は、ダンスだったんですね!では高校時代は友達とダンスの練習をしたりしていたんですか?

西田稔光 :
そうですね。中学でダンスを教えてくれた友達とは高校で離れてしまったんですが、僕はその後も同じ高校の友達と昼休みに柔道場に集まって、みんなでダンスというよりはウインドミルとかバク転とか、技の練習をしていました。それを文化祭とかでちょっと披露したりもして。

レペゼン :
めっちゃ青春ですね!当時は、服装もいわゆるBボーイ寄りだったんですか?

西田稔光 :
いえ、当時は情報もなかったですし、そういうブランドもあまり知らなかったので、Bボーイな服装はしていなかったですね。どちらかというとブレイクダンサーが着ている、オールドスクールな服装に憧れていました。祖父の髪をバリカンで刈ったお小遣いでPUMAスエードを買ったのはいい思い出です。

レペゼン :
これも稔光さんのご家庭ならではのエピソードですね!
『You Got Served』を観て憧れたということは、ダンスバトルなどにも挑戦されたんですか?

西田稔光 :
高校の最後の方で一度だけバトルに出ました。でも、それまでとにかく映像で観たものを真似してきた僕にとって、自分のダンスをするというイメージがなくて。初めてバトルに出た時は人の技の真似すらうまくできず、散々でしたね笑

レペゼン :
そうでしたか!笑

オリジナリティについて悩む
西田青年に刺さったある言葉

レペゼン :
そして、高校卒業後は駒澤大学に進まれたそうですね。

西田稔光 :
はい。駒澤大学は曹洞宗の大学で、仏教学部があるんです。そこに入り、ストリートダンスサークルにも所属しました。

レペゼン :
ダンサーとしての活動も本格化してくるわけですね。バトルイベントに出る機会も増えていったんじゃないですか?

西田稔光 :
そうですね。「柔道と違って、ダンスは人と競わなくていいところが好きだな」って思ってたのに、気づいたら競う世界に入っていました笑
技の練習が楽しかったっていう頃から、段々オリジナリティみたいなこととかを考えないといけないものの、何したら良いか分からないですし、正直「バトルには向いてないな」って思うこともありましたね。でもバトルに出ないと認められない風潮があったので……笑

レペゼン :
ブレイクダンスはたしかに「バトルに出てなんぼ」というイメージがありますね。

西田稔光 :
バイト(パクリ)って言われるのも怖かったですね。自分で思いついた動きをやっていても、バトルの相手から「バイトだ」と指摘されるだけで「え、そうなの…!?」って思っちゃうという笑
もちろん面白いは面白いんですけど、当時は人からの評価を気にしすぎてたなって思います。

レペゼン :
バトルで勝つためには、誰とも被らない技を生み出さないといけないみたいな。

西田稔光 :
そう思っていました。でも、あるバトルのジャッジ(審査員)を務めていた方が、「オリジナリティっていうのはムーブの被らなさじゃなく、今日食べてきたご飯とか、聴いている音楽からも作られてくんだ」とおっしゃったんです。それを聞いて、すごく肩の荷が降りた感覚があって。

レペゼン :
いやあ、素敵なコメントですね。

西田稔光 :
この考えは今にも繋がっています。食べたもの、聴いた音楽、出会った人などを、「縁」という仏教的な言葉で置き換えてみると、縁が自分を構成しているのであって、自分がオリジナリティを構築していくわけじゃないんだなって。
なので、自分が今まで得てきた縁を形にしたものが、オリジナリティや個性と言われるものだと思います。

レペゼン :
なるほど!個性は意識的に作り出すものではないんですね。

早ければ小学生から出家!?
意外と知らない「僧侶の資格」

レペゼン :
大学時代には僧侶になることは決められていたんですか?

西田稔光 :
そうですね。そもそも大学には、僧侶の資格を持っている人が受けられる推薦で入ったんです。

レペゼン :
え!「僧侶の資格」というものがあるんですか?

西田稔光 :
はい。「僧侶として出家をして、僧侶の入り口に立ちました」という最低限の資格ですね。これを宗派が管理するんです。それがあると受けられる推薦で仏教学部に入ったんです。なので、大学に入った時にはその方向で行こうとは思っていました。

レペゼン :
すると、高校時代に出家されたということですか?

西田稔光 :
「出家」と言ってもそこまで大それたものではなく、1日使って儀式を行なって、一度頭を剃るくらいのもので。早い人はもう小学校とかでやっちゃう人もいますね。

レペゼン :
初めて知りました。儀式を受けたあとは、ずっと坊主にし続けないといけないんですか?

西田稔光 :
いえ、儀式とか行事に出る時に丸刈りにすることはありますが、基本的には修行に行ってから剃る人が多いですね。僕も大学時代は金髪にしたこともあります。ただ、「髪型を飾るのは、自分を人よりも良く見せたいという執着の象徴だから剃る」という教えがあるんです。なのでこの道に入るというときに剃るんです。

レペゼン :
なるほど。稔光さんの場合は、大学卒業後、修行が始まるタイミングで改めて頭を剃ったわけですね。

仏教の視点からも考察できる
RHYMESTERの名リリック

レペゼン :
初めて衝撃を受けたヒップホップの曲は覚えていますか?

西田稔光 :
特に歌詞で衝撃を受けたのが、大学時代に聴いたRHYMESTERさんの「POP LIFE」ですね。僕のYoutubeチャンネルで1本目に取り上げた曲でもあるんですけど。

【 RHYMESTER – POP LIFE 】

レペゼン :
この曲は考察しがいがありそうですね!
特に印象に残っているリリックはありますか?

西田稔光 :

こちらから見りゃサイテーな人
だがあんなんでも誰かの大切な人
(宇多丸)

というリリックですね。これが当時、僕の中で人の好き嫌いに対する考えを変えたんです。自分が嫌いな人がなんで好かれてるんだろうっていうことや、自分と他人の好き嫌いが一致しないことに対して抱えていたジレンマを軽くしてくれたんです。それを経て「ラップってすごく学ぶことがあるな」って思ったんです。
そしてお坊さんになった後、お経の中でこれと似た内容を学んだんです。

レペゼン :
そうなんですか!?どういう内容ですか?

西田稔光 :
水というものは、人が飲めば潤いだけど、魚にとっては棲み家。さらに天人から見ると宝石のように光って見え、餓鬼には耐えがたく恐ろしいものに見えるという内容です。これを、水1つとっても立場が違えば見え方が違うという意味で「一水四見(いっすいしけん)」というんですが。これを聞いた時に「これって『POP LIFE』じゃないか!?」と思い、さらに「ヒップホップを聴いてきたことって無駄じゃないかも」と思った最初のきっかけになりました。

レペゼン :
本当に面白いです!宇多丸さんのラッパーとしてのすごさも改めて分かるエピソードですね!

次回は、大学を卒業し、いよいよ僧侶としての修行が本格的に始まった頃についてのお話。それまでの生活と一変して、過酷な環境での修行が続く日々……。稔光さんの脳内では、あるラップソングが流れていた!?

プロフィール

  • 西田 稔光(にしだ しんこう)

    西田 稔光(にしだ しんこう)

    栃木県足利市・明林寺の副住職。 駒澤大学仏教学部を卒業した後、曹洞宗大本山永平寺で2年間修行し、さらに曹洞宗総合研究センターで布教について学ぶ。コロナ禍に同期の僧侶とYouTubeでの発信を始め、後にヒップホップカルチャーを仏教の視点から考察するYouTubeチャンネル『僧侶しんこうのHIPHOP仏教』を開設。仏教の視点のおもしろさと人生に活きる仏教を発信するために活動中。その他、都内にて坐禅会や食事作法のワークショップ等も開催。

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