『スパイダーマン : スパイダーバース』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.165

アニメ好きとヒップホップ好きを同時に唸らせた現代のヒーロー映画。

ライター:ほりさげ

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回取り上げるのは『スパイダーマン : スパイダーバース』

『スパイダーマン : スパイダーバース』とは?

スタン・リーによるMARVELコミック原作。
放射性のクモに噛まれ、特殊な能力を得た主人公が、苦悩や葛藤を抱えながらも敵と戦い、街を守るスーパーヒーローの物語。トビ・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、そしてトム・ホランドがそれぞれ主演となった実写版シリーズも人気が高いけど、今作は、スパイダーマンシリーズ初のアニメ化として公開前から大注目されていた作品だ。

舞台はニューヨーク。街を陰で牛耳るギャング、キングピンは、異次元にアクセスする装置を開発し、マルチバース(多元宇宙)への入口を開いてしまう。街を守る “スパイダーマン”である主人公のマイルズ・モラレスは、時空を超えて現世に飛ばされてきた他のスパイダーマンたちと共にキングピン一味との戦いに挑む。

それまでは、気鋭の作家/アニメーターとして数々のヒット作を生み出してきたロドニー・ロスマン、ピーター・ラムジー、ロバート・ペルシケッティ・Jrという3人が初監督を務めた今作は、アニメ好きを唸らせる革新的な映像技術と、ヘッズを歓喜させるヒップホップカルチャー臭で世界的な人気を獲得。興行収入は5億ドル超(700億円超)を突破したんだ。

あちこちに散りばめられた
ヒップホップ要素

これまでの実写版スパイダーマンシリーズの主人公、ピーター・パーカーは白人青年だったけど、今作の主人公、マイルズ・モラレスは、黒人の父とプエルトリコ系の母を持つ高校生(コミック『ultimate spiderman』が原作)。その影響か、作中にはヒップホップカルチャーがたっぷり詰め込まれている。

登校中はヒップホップを聞きながら自分のタグを描いたステッカーを街にボムり、部屋にはチャンス・ザ・ラッパー(帽子のロゴが「3」ではなく「4」になっているけどね…!)のポスターを貼っているマイルズ。
さらに注目すべきは、彼が履いている「エアジョーダン1シカゴ」だ。「まさかジョーダンを履いたスパイディが出てくるとは!」…と、スニーカー好きの間でも大きな話題に。そんな話題性も手伝ってか、2019年にはJORDANと公式にコラボしたモデル「Origin Story」が発売されたんだ。

といった具合に、スパイダーマンたちがヴィランと戦う描写が本格的に始まる前から、ヘッズを「お!!」っと前のめりにさせる要素が目白押し。音楽、ファッション、アート、そして街の雰囲気…。いろんな角度でヒップホップヴァイブスを楽しめること請け合いだ。

ヒップホップ中心のサントラで
胸熱な演出!

今作のサントラには、Amine、Jaden Smith、Nicki Minaj、Juice WRLD、Lil Wayne、Ty Dolla $ignなど、人気アーティストが揃い踏み。このあたりの選曲からも、製作陣のヒップホップ愛が感じられる。

また、サントラアルバムには収録されていないものの、要所要所でThe Notorious B.I.G.、Blackaliciousなど、懐かしのアーティストの楽曲も流れ、思わずニヤついてしまう。新旧問わず良い曲をセレクトして最後まで飽きずに鑑賞させてくれるあたり、まるで凄腕のDJによるプレイみたいだ!

個人的に、終盤の重要な局面で流れる楽曲「What’s Up Danger」が特にオススメ。家の人の許可を得て、できるだけ大音量で鑑賞してほしい!

【Blackway & Black Caviar – What’s Up Danger】

また、Post Malone,Swae Leeによる「Sun Flower」は今作を象徴する曲として人気を博し、全米ビルボードチャートでも1位を獲得。映画を観た後は、あなたもきっとマイルズのように「You’re Sun Flower…」と口ずさみながら街を歩きたくなるはず。

【Post Malone,Swae Lee – SUN FLOWER】

冒頭5分だけで映画1本分の労力!?
CG×手描きという狂気の超大作

この作品、全体にCGを使っていることは分かるけど、なんだかそれだけではない。セリフの吹き出しや擬音が表示されるというアメコミ的表現を含んでいるほか、全体的にコミックのような懐かしいテクスチャーも感じさせる。

それもそのはずで、監督とアニメーションスタッフたちが、「コミックの中を歩いている」雰囲気を作ることにこだわった結果、3DのCGを作ったあと、その映像に手描きで線を加えていくという、とんでもなく時間と労力のかかる手法をとったそうだ。これは恐ろしい!いわば2つ分の映画を作るみたいなことだからね。
日本を代表するゲームクリエイターの小島秀夫さんも「この作品はとにかくカット数が尋常ではない。冒頭の5分だけで、映画1本分くらいの手間がかかっていると思う」と話している。

この革新的な映像と丁寧な仕事の甲斐もあり、2019年のアカデミー賞では長編アニメ映画賞を受賞した。

ニューヨークとグラフィティは
切っても切れない関係

マイルズが叔父さんと夜の地下鉄の車庫に忍び込んで壁一面にグラフィティを描くシーンも、ほんの数分間のシーンではあるけど、実にイケてる。
NYの下町は実際に、日本とは比べ物にならないほどグラフィティやタグで埋め尽くされているわけだけど、そんな街を舞台にした『スパイダーマン』では、これまで街のグラフィティにはスポットが当たらなかった。そんな中、あえてグラフィティを描くシーンをしっかり入れた今作は、やはりこれまでのスパイディシリーズとはアプローチが一味違うよね。

そしてこのシーンはBGMも秀逸。Incredible Bongo Band「Apache」とBlack Sheep「The Choice Is Yours」がDJプレイのようにミックスされていて、なんなら途中でレコードのスクラッチ音も入っているんだ。そんなオールドスクールなヒップホップカルチャーが盛り込まれたこのシーン。とくと楽しんで。

さらにチェックすべきは英語版の叔父さんの声。『ムーンライト』『グリーンブック』での演技で映画ファンにはお馴染みの名優、マハーシャラ・アリが担当しているんだ。いわゆるNYのちょいワル親父の訛り方は最高にクールで、真似しようとしてもできない渋さがあるよ!

“持たざる者”がヒーローに!
ヒップホップ的展開

能力を獲得する前のマイルズは、父親の厳しい教育にうんざりしていて、無理やり転校させられた先の学校でも馴染めず、女の子に気の利いた声もかけられない…。つまり、思春期真っ只中のどこにでもいるような男子なんだ。
クモのパワーを得た後も、そのパッとしなさは変わらない。能力を使いこなせないばっかりに周りの足を引っ張ってしまい、挙げ句の果てには、他のスパイダーマンたちから「お前には無理だ。来なくていい」と戦力外通告を受けてしまう。しかし、その直後に覚醒して能力を自在に操れるようになる。
そう、これは持たざる者が奮起して無二の存在になるというめちゃくちゃヒップホップ的な展開なんだ。これまでこの作品に散りばめられたいろんなヒップホップ要素を紹介してきたけど、筆者はこのメッセージ性に最も痺れた。

また、マルチバース(多元宇宙)からいろんなスタイルのスパイダーマンが出てくるという、この作品のコアともいうべき設定からも、「選ばれし者は決して1人ではない」というテーマが感じられる。

そして主人公のマイルズは、物語の最後に「君もマスクを被れる」と語る。つまり僕らは、“One of Them(=大衆の中の1人)”ではなく、誰しもが “One and only(=唯一無二)”なんだ。そんな前向きなメッセージをぜひキャッチしてほしい!

画像出展元 : SONY PICTURES

配信先:Netflix

 

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