ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今月のゲストは、ラジオパーソナリティ、コラムニスト、そして作詞家と、幅広く活躍されているジェーン・スーさん!
辛い時はNasのパンチラインに励まされるなど、ヒップホップと切っても切れない関係のジェーン・スーさん。vol.3では、書き手・話し手としてデビューした頃のお話に迫ります。’00年代を代表するあの名盤の話も!
前回の記事はこちら→ 世界は誰のもの?心が折れかけた社会人時代のジェーン・スーを救ったパンチライン
徒然なるままに日々を書き連ねていたら…

レペゼン :
現在はコラムニストやラジオパーソナリティ、ポッドキャスターといった仕事がメインということでしたが、まず文章を書いて誰かに読んでもらうという体験は、小さい頃にあったんですか?
ジェーン・スー :
長い文章を書いて誰かに読んでもらうという経験を初めてしたのは、20代前半くらいです。その当時流行っていたメーリングリスト(*)がきっかけですね。
※一つのメールアドレス宛に送信したメールを、あらかじめ登録された複数のメンバー全員に一斉送信する仕組み。
レペゼン :
メーリス!懐かしいです。LINEが始まる前は、クラスやサークルといったコミュニティの連絡手段としてよく使われていましたよね。どんなことを書かれていたんですか?
ジェーン・スー :
会社での出来事や世間に思うことをおもしろおかしく書いて、友達5人くらいに送信していたんです。「誰かに読んでほしい」というよりも「書きたいことがあるからやってる」くらいの気持ちで。だからそれを仕事にする気はさらさらなかったですね。
レペゼン :
そうだったんですか!そこからどうやって仕事になっていったんですか?
ジェーン・スー :
当時、mixiでコミュニティを運営したり日記を書いたりしていたんですけど、その当時のmixiって雑誌の編集者や文芸誌の方にとって、新しい書き手を探す狩り場みたいになってたんですよ。それで、わたしのコミュニティの内容を見たり日記を読んだりした編集の方が「うちで書いてみませんか」と連絡をくれたのが書く仕事のスタートです。
レペゼン :
mixiでヘッドハンティングとは面白いですね!
ジェーン・スー :
ちなみに、mixiのハンドルネームが「ジェーン・スー」だったので、そのままペンネームで使っていまに至りました。
「無名の音楽通」として
大抜擢されたラジオ番組
レペゼン :
ラジオパーソナリティもそれまでと異なる職種ですが、どういった経緯でデビューされたんでしょうか?
ジェーン・スー :
TBSラジオの『高橋芳朗HAPPY SAD』という番組で、「音楽業界にいるけど、そこまで名前のない人をゲストに呼びたい」という話になった時に、わたしの名前が挙がったみたいで。
レペゼン:
おぉ!
ジェーン・スー :
そこに出演させていただいた回を聞いていたプロデューサーの方から「次は他の番組も何かやってみませんか?」って言われて、ナイターオフの半年間くらいにやる『ザ・トップ5』という番組を週一で担当するようになったんです。それが決まってから『タマフル』(『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』)も決まりました。
レペゼン :
そういった経緯だったんですね。
2015年には『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題(幻冬舎文庫)』で、講談社エッセイ賞を受賞されました。経済面含めいろんなことがガラッと変わっていったんじゃないですか?
ジェーン・スー :
ハッキリと生活が変わったのは、2016年に『ジェーン・スー 生活は踊る』(*)が始まってからですね。なんせ月〜木で行うレギュラー番組ですから。フリーランスとはいえ、ほぼ毎日同じ時間に、まるで会社員のようにTBSに出勤するんです。逆に、書籍は意外と賞を取ったからといって、それ以降大幅に収入が増えることはないんですよ。今だったらnoteで書いてる方が全然儲かるかもしれないですね。
※TBSラジオで月曜~木曜の11:00~14:00に生放送されているジェーンスーさんの冠番組。
「やってみようか」と思える鶴の一声
レペゼン :
現在は作詞もされているということで、改めてジェーン・スーさんの引き出しの多さに驚くのですが、もともと作詞経験はあったんですか?
【土岐麻子 – セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい~】
自身のエッセイが原作のドラマ『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』のオープニングテーマにもなった『セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい~』では、土岐麻子さんと共に作詞を手がけた。
ジェーン・スー :
一切なかったですね。きっかけは今もお世話になってるagehaspringsの玉井社長です。彼から「アイドルをデビューさせるから、企画をやってくれない?」という話があって。それで業務委託として企画書を書かせてもらったのがスタートです。そこから派生して「じゃあ作詞もやらない?」って提案されて。「やったことないしやりたいと思ったこともないけど、やります」と答えて始まっていきました。
レペゼン :
未経験のことにそうやって飛び込めるのはすごいですね。怖さや不安はなかったんですか?
ジェーン・スー :
信用できる人から「できる!」って言われたら、やったことがなくてもやるようにしてるんです。ラジオパーソナリティの話をいただいた時もそうです。それまで不特定多数の前で話す経験なんかなかったんですけど、「あなたならできますよ」って言われて。「この人にそう言ってもらえるなら、やろうか」となりましたね。
レペゼン :
なるほど。周りからの後押しの声が、新しいことに挑戦するキューになっている感じがしますね。そこでちゃんと才覚を発揮されてきたこともすごいことです。
冷蔵庫にあるものから生み出される
“アレンジレシピ”の魅力

レペゼン :
そうやって活動の幅を広げていかれた時期に聞いていたラップソングはありますか?
ジェーン・スー :
実はわたし「RUFF RYDERS」全盛期、つまりDMXが天下を取っていたあたりの時期に一回うっすら”ヒップホップ離れ”しているんです。あ、でもJay-Zとかミッシー、コモンあたりは聴いてたか。もともとサンプリングベースのトラックが好きだったけれど、Swizz Beatzあたりからはそうじゃないポップな曲も増えてきて、なんでもかんでも聴く感じではなくなったかも。でもKanye Westが20代後半くらいの時、2003年とか2004年あたりにリリースした『The College Dropout』は衝撃でしたね。
※ニューヨーク・ヨンカースをレペゼンするヒップホップユニット・レーベル。プロデューサーSwizz Beatzを筆頭に、DMX、Eve、ジェイダキスらが所属し、2000年代のヒップホップシーンを席巻した。
レペゼン :
『The College Dropout』はまさに、ザ・サンプリングのアルバムですが、やはりそういったヒップホップがジェーン・スーさんのツボなのかもしれませんね。
ジェーン・スー :
そうですね、やっぱり冷蔵庫にある限られたものでアレンジレシピを考えて、超おいしい料理を作っちゃうみたいな工夫が好きなんですよ。『Through the Wire』は衝撃的でした。「元ネタを早回ししてるだけで、なんでこんなにかっこいいんだろう」って。あのアルバムが好きすぎて、ジャケットのTシャツ買いましたもん笑
今こんなことになるとは想像もできなかったけど。
【Kanye West – Through The Wire】
レペゼン :
すごい!今もそのTシャツは持っているんですか?
ジェーン・スー :
いや、もうどこか行きましたね。もったいなかったですね笑
レペゼン :
今持っていたら、相当プレミアかもしれないですね笑
ちなみに、今のカニエの活動だったり言動に対してはどんな感想をお持ちですか?
ジェーン・スー :
彼が病気を患っていたこと、いまは少しずつ改心する様子を見せていることを鑑みても、当時の発言内容には相当問題があったと思います。腹が立ちましたし、悲しかった。いまではアメリカ国内でライブ活動ができないのも当然です。と同時に、人の心を読んで商売をするということに関しては並外れた才覚がありました。「何を言えばどう人が動いて商売ができる」ということを熟知している。ただ、その手法にカニエ自身が飲み込まれてしまった感はあります。女性蔑視や差別発言も多く、当然肯定はできません。でも「あんなこと言ってるカニエが出す曲なんてもう聴けないわ!」と完全に遮断してキャンセルできるかと言われれば、難しいなという気持ちも正直あります。
レペゼン :
そもそもカニエが今なお現役として活動し続けていることも、事態を複雑にしているかもしれませんね。彼が新譜を出せば、やはり多くのヘッズが気になってしまうのもまた事実です。
ジェーン・スー :
私にとっては、とても難しい問題です。ここ数年のカニエが過激な発言で多くの人を傷つけてきたのは軽視できない事実ですから。しかし新曲が出ると、高揚を感じたり、揺さぶられたりしてしまうことがある。そういう時は、とてもとても後ろめたい気持ちになります。曲がいいからと言って、出来事をすっ飛ばしてもろ手を挙げて楽しめるわけでもないですし。カニエを聴く頻度は圧倒的に下がりましたが、作品と作者を完全に同一視することも、完全に切り離すことも私には難しいのが現状です。だから、誰かに勧めたりはできませんね。あの事件を経て、あっさり興味を失えればよかったのにと思います。
次回はいよいよ最終回。改めてジェーン・スーさんが考えるヒップホップの魅力について深堀りしていきます。最後には、今聴くべきオススメのラップソングも紹介してもらうよ!お楽しみに。

