『Scratch』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.154

すべてはDJから始まった—— パイオニアたちの証言から知る文化のルーツ、そしてヒップホップとは?

ライター:TARO

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回取り上げるのはDJ、ターンテーブリズム文化を描いたドキュメンタリー『Scratch』!

『Scratch』とは?

2001年公開のドキュメンタリー映画。ヒップホップの誕生、そしてDJ文化の発展をパイオニアやトッププレーヤーたちへのインタビューを通して紐解いていく。

①ヒップホップのルーツとは?

世界中で多くの人々が楽しむカルチャー、ヒップホップ。今ではユニバーサルなものになったこの文化は1970年代のニューヨークで、とあるDJが革新的なプレーをしたところから始まっている。1973年、ブロンクスに住んでいたDJ、Kool Herc(クール・ハーク)は観客がいつも楽曲の同じ部分で盛り上がっていることに気づき、同じ楽曲のレコードを2枚同時にかけ、曲をループさせる “The Merry-Go-Round(メリー・ゴー・ランド)”というテクニックを発明。以降、彼が作る曲の間奏部分(breaks)の“つなぎ”はbreak beatsと呼ばれ、言葉を乗せたり、ダンスを踊るビートとしてヒップホップ文化の根幹になっていく。これがヒップホップの始まりであり、そのテクニックを生み出したクール・ハークは“ Father of Hip-Hop(ヒップホップの父)” と呼ばれることになる。つまり今現在僕たちが楽しんでるヒップホップカルチャーは全てDJの創意工夫、テクニックから始まったものなんだ。

映画『Scratch』はそんなDJたちのテクニックとその発展の歴史に焦点を当てた作品。そりゃヘッズとしてはチェックするしかないでしょ。

②ヒップホップ文化のパイオニアたちが総出演

映画『Scratch』の見所はヒップホップ草創期からのパイオニアたちが総出演しているところ。Zulu Nationを立ち上げたAfrika Bambaataa(アフリカ・バンバータ)、スクラッチという技術のパイオニアであるGrand Wizzard Theodore(グランド・ウィザード・セオドア)などが話す当時のリアルなエピソードは超貴重。特にグランド・ウィザード・セオドアがレコードを擦るテクニック“スクラッチ”を生み出したきっかけを語るシーンは必見だ。ヒップホップ文化、そしてDJingがどのように発展したきたか知ることができる。さらに映画にはDJバトルの世界大会・DMCで3回優勝、Beastie Boys(ビースティ・ボーイズ)のDJとしても知られるMix Master Mike(ミックス・マスター・マイク)やInvisibl Skratch Piklz(インビジブル・スクラッチ・ピクルズ)のDJ Qbert(キューバート)などのレジェンドDJたちも出演し、DJのテクニックやその発展を紹介。DJの歴史をさまざまな角度から学ぶことができるんだ。

③ターンテーブリストたちの
超絶テクニック

ターンテーブルを自在に扱い、スクラッチやビートジャグリングといったテクニックで観客を沸かすターンテーブリストたち。日本ではDMC世界大会優勝者であり、現在Creepy Nuts(クリーピー・ナッツ)として活躍するDJ松永氏のパフォーマンスでも知られている”ターンテーブリズム”をこれでもかというぐらいに感じることができるのがこの映画。
ミックス・マスター・マイクやキューバートらの驚異的なターンテーブル、ミキサーさばきから生み出される“擦り”のグルーヴはもはや異次元だ。また彼らのセットに合わせて挿入される映像も超クール。ドキュメンタリーでありながら、ミュージックビデオのような感覚でも楽しめるんだ。

④DJバトルの世界大会、DMCの歴史

今年、初めて日本で決勝大会が行われたDJバトルの世界大会「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS」。日本から出場したDJ FUMMYが見事クラシック部門での王座を勝ち取ったこの歴史ある大会についてこの映画では多く触れられている。日本からもこれまでにDJ KENTAROやDJ IZOH、そしてCreepy Nuts のDJ 松永など多くのワールドチャンピオンを輩出してきたDMCの歴史や意義を知ることができるのもこの映画の大きな魅力だ。特にDMC史上唯一の3連覇を成し遂げたDJ CRAZEの優勝セットと彼がDJバトルについて語るシーンはターンテーブリストなら必見だね。

⑤人種や育ちは関係ない。
ヒップホップという旗のもとに集ったキッズ達

映画『Scratch』から知ることができるのはヒップホップという文化が元々どれだけ多様性に富んだものであり、多くの若者に影響を与えてきたか。どうしても今はラップが一番目立つ産業になり、フィーチャーされがちだけど、もともとヒップホップはDJ、MC、ブレイクダンス、グラフィティという四大要素で構成されるもの。この映画では様々な人種的、文化的背景を持つキッズたちがそれぞれの形でカルチャーに夢中になり、切磋琢磨してスキルを磨いていく様子が描かれている。まさにそれは黎明期のヒップホップカルチャーの一つのテーマであるPeace、Love、Unity、Having funの精神そのもの。ヒップホップ文化が多様化する今こそ見るべき作品だ。

画像出展元 Palm Pictures

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