こんな時、君ならどうする?ジェーン・スーが説くストリートカルチャーの知恵

正論だけでは解決しない問題。今こそストリートの知恵を発動させる時!

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今月のゲストは、ラジオパーソナリティ、コラムニスト、そして作詞家と、幅広く活躍されているジェーン・スーさん!
vol.4では、改めてヒップホップの魅力や可能性について深くお聞きしていきます。イチオシのラップソングは、約10年ぶりに来日公演を果たしたあのアーティストの1曲!

前回の記事はこちら→ 迷わず行けよ、行けば分かるさ!コラムやラジオの世界に飛び込んだジェーン・スー

やりたくないことを
やらないために頑張る

レペゼン :
さまざまなキャリアや経験を経てきたジェーン・スーさんですが、今後挑戦してみたいことや目標はありますか?

ジェーン・スー :
私、やりたいこととか夢は全然ないんですよ。基本的に「やりたくないことをやらないため」に働いているので、それは継続していきたいですね。これは何も「楽をしたい・休んでいたい」という意味ではなく、自分の生きる指針に反することとか、自分の価値が低く感じるようなことと距離を取るという意味です。

レペゼン :
なるほど。やりたくないことをやらないためにエネルギーを使うという、むしろ能動的な生き方ですね。

ジェーン・スー :
あとは、人に名前を知ってもらった今の自分の力を使って、「健やかな権力の行使」をしていきたいです。最近だったら『BIG ISSUE』(*)の表紙に載せていただいたので、SNSで「ぜひ買ってください!」と発信したり。そういう露払いのようなことの為に自分の認知度を使っていきたいです。

※ …ホームレスや生活困窮者の社会的自立を支えるメディア。91年にロンドンで原型が生まれ、日本では2003年に雑誌制作と販売がスタート。

レペゼン :
「健やかな権力」という言葉、素敵ですね!

現代社会の難しい問題に
ストリートの知恵が効く!

レペゼン :
それからジェーン・スーさんはよく、現代社会の問題への取り組み方を語る際に「ストリート」という言葉を用いられますよね。ヒップホップのメディアとしては、ぜひ詳しくお聞きしたいです。

ジェーン・スー :
正論や綺麗ごとだけで片付けられない問題が現代社会には溢れているわけですが、それらへの向き合い方としてストリートの知恵が役立つと思っています。
人種問題で例えてみましょう。最近、20代の女の子2人を連れてプロレス観戦しに行ったんですけど、メキシコ人プロレスラーが最後に「今、日本では外国人の排斥が増えてきて恐ろしいことになっているけど、僕らにとってはここがホームだし、ここで一緒に戦っている仲間が自分の家族だと思って守っていく!」と、力強く語っていて。

レペゼン :
すごい!感動的なスピーチですね。

ジェーン・スー :
わたしもすごく良いスピーチだと思ったんですけど、一緒に行った2人のうち、1人はそれを聞いて泣いていたけど、もう1人は真摯に聞いていたという感じ。というのも、泣いていた友人は黒人と日本人のミックスで、もう1人はお父さんが白人のミックスなんです。
どちらも20代後半の女性で、同じ時期にミックスとして日本で生まれて同じように日本人として日本で生きてきたなか、お父さんの人種が違うことで、スピーチを聞いた時の捉え方が違うという風にわたしは感じました。

レペゼン :
うーん。これはまた複雑といいますか、示唆深いといいますか……。

ジェーン・スー
ですよね。その時は、わたしもなんて声をかけていいかわからず、結局3人で下向いてスマホ触るしかなくてね。
だから「人種差別は良くないよね」というのは至極まっとうな正論だけど、実際はそんな簡単な言葉で片付くような現状ではないんです。どうして二人の反応が異なったかと言えば、それは「日本でミックスとして暮らしていく」なかで、敢えてわかりやすく言うと「どんなミックスか」で日本のマジョリティの対応が異なるということ。
そういうを超えていくのに役立つのがストリートの知恵だと思うんです。

レペゼン :
おぉ!ここで「ストリート」が出てくるんですね。

ジェーン・スー :
問題解決のためにはまず、事態を理解する解像度を上げる。そのためにはストリートで起こっていることをつぶさに見ていかないと。
「人種や性別や年齢で差別してはいけない」というのは正しい。とはいえ「わたしの中には差別をする発想は一切ないです」というのは、嘘じゃないですか。誰しも差別する心があるし、実際に自分が差別に加担している可能性がある。つまり目指すべきところと今の自分たちの間に、かなりの乖離があるわけですよ。でもそれを認めたうえで、諦めずに今ある材料で解決に向かっていこうとする力がストリートの知恵なんです。

レペゼン :
なるほど。

ジェーン・スー :
実際の正しさや理想論だけで片付けられないものに対して工夫をしていく。それが現代社会の問題に対する向き合い方として、ストリートカルチャーから学べるものなんじゃないかなと思います。すべてにおいて「なぜそういうことが起こっているのか」を現場から理解していこうとする姿勢だと思っています。

レペゼン :
間違いないですね。力が湧いてくる気がします。

ダメな現状を肯定?
いや、ひっくり返そうぜ!

レペゼン :
今あるもので工夫を」という話は、今回のインタビューでも何度かお話しいただいたヒップホップの魅力であり可能性でした。改めてジェーン・スーさんにとってヒップホップカルチャーというのはどういったものでしょうか?

ジェーン・スー :
そうですね、「自分たちだけのかっこよさ」を見つけて、そのカルチャー以外の人が真似したくなるところまで昇華させてきたのが他にはないヒップホップやブラックカルチャーの魅力だとわたしは思います。機材がない人たちが、ブロックパーティにレコードを持ち寄って新しい音楽の形を作ったように、“持たざる者”が工夫して既存の価値観をひっくり返すという一連の流れがヒップホップに惹かれたところだし、わたしもそうありたいと思います。

レペゼン :
ありがとうございます。反骨精神とクリエイティビティですね。

ジェーン・スー :
パンクスの友人の話を聞いていると、考え方としては「ダメでOK。それがかっこいい」なんだろうなとお思いました。労働者階級の人たちが楽器をうまく弾けないとか歌をうまく歌えないとか、一般的にはダメだとジャッジされるような状況でも、それを全力で肯定する力のあるカルチャーがパンクだとわたしは理解しているんですけど、一方、ダメだろうがなんだろうが、新しいものを作って現状のカッコイイをひっくり返そうぜというのが、ヒップホップの姿勢だとわたしは思っていて。

レペゼン :
それでいうと、トラップの登場とともに広まったいわゆる「エモラップ」などはいかがですか?ドラッグに溺れたり鬱になったりするなかで、現状打破するというよりは俯瞰的に見ているような曲も多いですよね。

ジェーン・スー :
まさにそういうスタイルがメインストリームになったあたりから、ふたたび全然ついていけなくなりました笑。「う。わたしには暗い…」ってなっちゃうんですよね。
でもヒップホップって常に若い世代のものだし、その時代の空気を吸い込んで吐き出された音楽なので、わたしが今のメインストリームに距離を感じることも当然だし、むしろ健全なんじゃないかなと思います。

レペゼン :
なるほど。ありがとうございます。では最後に、最近聞いてぶち上がった曲を教えてください。

ジェーン・スー :
新譜じゃないんですけど、Common「Universal Mind Control (UMC)」(2008年)です。今年、コモンの[Billboard Live TOKYO]でのライブを見に行った時にやってくれて、ぶち上がりました笑
プロデュースのThe Neptunes(ザ・ネプチューンズ)の天才っぷりにも改めてハッとする1曲です。

【Common – Universal Mind Control (UMC)】

レペゼン :
この曲が収録されたアルバム『Universal Mind Control』(2008年)は、コモンとネプチューンズの相性の良さをたっぷり堪能できる1枚ですよね。

ジェーン・スー :
一時期ヒップホップを熱心に聴かなくなった時期も、コモンだけはずっと聴いていたし、今までの来日公演もほぼ全て行っていると思います。2000年くらいに出た『ELectric Circus』というアルバムも、お気に入りの一枚です。周りの誰も評価してくれないんですけどね笑
ぜひ聴いてみてください。

レペゼン :
隠れた名盤ですね!必ずチェックします。改めて、本日は貴重なお話をありがとうございました。

ご両親を介護していた頃のハードな経験や、仕事との向き合い方、そしてヒップホップの可能性にいたるまで、たっぷり語ってくださったジェーン・スーさん。今年はエッセイのリリースも相次いでいます!
まさに現実にがっぷり四つ組み、お父様のケアに奔走した記録を綴った『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)。そして美容やライフスタイルを通して自分を愛することについて考える『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)
ジェーンスーさんのリズミカルでユーモラスなエッセイは、読む人の背筋を伸ばして背中を押してくれます。ぜひチェックしてみてね!

『介護未満の父に起きたこと』

『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』

 

プロフィール

  • ジェーン・スー

    ジェーン・スー

    コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』を始めTBSポッドキャスト『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』、『となりの雑談』のパーソナリティーも務める。『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)、『へこたれてなんかいられない』(中央公論新社)、『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)など著書多数。