目 次
ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについてインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月は栃木県宇都宮市にある峰町キリスト教会に所属する牧師であり、ラッパーとしてのキャリアも持つ、安食ジョイ(アンジキ・ジョイ)さんに4回に渡ってお話をお伺いしました。Vol.4はヒップホップと信仰の共通点、そして安食さんが伝えたい想いについて話して頂きました。
前回の記事はこちら→ ヒップホップ愛あふれる店主が守る、福岡の老舗・金屋食堂
信仰とラップミュージック。共通する“語り”の文化
レペゼン:
ラッパーとしても長年活動されてきた安食ジョイさんですが、安食さんから見てキリスト教とヒップホップの交差する部分を教えてください。
安食ジョイ:
やっぱりルーツじゃないでしょうか。元々ヒップホップはブルースやゴスペルなど、キリスト教の背景を持つブラック・ミュージックから発展してきた音楽ですし。『FREESTYLE: THE ART OF RHYME』というドキュメンタリー映画があるのですが、そこでフリースタイルの起源についてアメリカ南部地域の黒人教会における牧師の説教がルーツになっているという話が紹介されていました。黒人教会の牧師たちはまさに歌うように、リズミカルに話していくんですよ。そこに共鳴した記憶がありますね。
レペゼン:
やはり一説にはキリスト教のルーツもあるんですね。
安食ジョイ:
そうですね。ヒップホップは抑圧されたアフリカンアメリカンの方が音楽やアートを通して希望を見出していく文化だと思いますし、そこには差別や不条理に対する叫びや願いが込められている。そのバッググラウンドに信仰のスピリットはかなりリンクしてると思います。
日本語ラップという表現の形。
アメリカとは違う背景だからこそ広がる多様性
レペゼン:
日本語のヒップホップは歴史的な背景や信仰、習慣などの土台がアメリカと異なるため、アメリカから見ると「カルチャー的に薄っぺらい」と思われることもあるかもしれません。そんな中、日本人のアーティストはどういうラップの表現をすればいいと思いますか?
安食ジョイ:
アメリカのような背景がないからこそ、日本のスタイルって結構グラデーションというか幅があるなって思うんです。ポップな内容を歌う人もいれば、ゲットー育ちでのし上がってきた経験を歌う人もいる。また、スピリチュアルな世界観を持つ人もいますよね。
レペゼン:
確かに。
安食ジョイ:
つまりある意味では、アフリカンアメリカンのように抑圧された背景や社会へのメッセージが少ない代わりに、日本人ならではの感覚というか、文化的な背景からいろんなラップスタイルが生まれていくと思います。ラップミュージックというものを日本人としてどう表現するか、自分の感性をどう言葉にするか。そこに日本語ラップの魅力があると思います。
牧師として、ラッパーとして
──言葉に乗せて届けるメッセージは同じ
レペゼン:
ラッパーとしての経験が牧師として活きていると感じることはありますか?
安食ジョイ:
それはめちゃくちゃありますね。実際ラッパーと牧師の仕事は重なる部分が多いと思います。リリックを書いてライブをすることって、メッセージの原稿を準備して礼拝で話すこととすごく似ているんです。今改めて信仰的な目線に立つと、ラップに出会ってそれに没頭した時期も、今牧師になるために必要なこととして当時備えられていたことなのかなと思います。野球部時代のことも音楽のことも、それぞれ点だったものがいま線になっていると感じています
レペゼン:
良いですね。改めてですが、牧師になられてからは、ラッパーとしては活動していらっしゃるんですか?
安食ジョイ:
ゴスペルラップという形で歌詞を書いたり、曲は作ったりはしてますね。
少し前にはなりますが、栃木のラッパーのSAKA the GAMIと組んで『0g』という曲をリリースしたりしました。
【 アンジキジョイ × SAKA the GAMI 『0g』の中のMY HOOD】
安食ジョイ:
あとはちょうど先日、Youtubeチャンネル「KICK IN THE DINING」で久しぶりにラップさせて頂きましたね。
レペゼン:
UMB神戸チャンプに申し上げるのもはなはだ恐縮ですが、韻バチバチに固くて、超カッコいいです…!
心に届くクリスチャンラップ
レペゼン:
最後に牧師という視点から、また安食さんの中で力をもらえる、勇気づけられるラップソングを教えてください。
安食ジョイ:
RENE MARSっていう日本のラッパーがいるんですが、彼のアルバム『APPROACH』はオススメです。彼もクリスチャンで、『APPROACH』はまさにゴスペルアルバムという感じですごく良いですね。
【 RENE MARS -この道の上 】
安食ジョイ:
あとは、大学の後輩でもある Cosaqu(コーサク)が所属する梅田サイファーも好きです。集団MCの最先端だと思っています。またそのメンバーのKZのソロもめっちゃ好きなんです。彼は心の思いを掘り下げてリリックに落とし込むラッパーなんですが、とても共感できるリリックが多くて。特に昨年出たアルバム『Less, but better』は本当に良いですね。たぶんフィクションだと思うんですけど、耳の聴こえない彼女にラップのことを伝えるという「Awareness」という曲が特に印象に残っています。
【 KZ – Awareness 】
レペゼン:
素敵なリリックですね。私もキリスト教徒ではないですが、安食さんが大事されているものをRENEさんやKZさんのリリックから感じれるような気がします。
安食ジョイ:
正直、信仰あるなしに関わらず聖書には豊かな人生を送るヒントがたくさんあると思っています。だから「教会って宗教っぽくて無理」とか思わずに、気軽に足を運んでみてみてほしいですね。行ったからってしつこく勧誘受けるとか全然ないので笑
特に誰かに話を聞いてほしいなと思ったら、気軽にきて欲しいですね。教会って開かれた場所であるべきだと思いますし自分もそういう居場所作りに取り組んでいきたいですね。
レペゼン:
ヒップホップ好きならUSラップを理解するという意味でもキリスト教の考え方に触れることも大事だと思います。この度はお忙しい中、本当にありがとうございました!
安食ジョイ:
ありがとうございました!