関西バトルラップシーンから聖書学校へ。安食ジョイが見出した信仰とは?

“自分のため”に書いたリリックから、“誰かのため”に語る言葉へ。牧師としての使命に辿り着くまでの物語

ライター:TARO

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについてインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月は栃木県宇都宮市にある峰町キリスト教会に所属する牧師であり、ラッパーとしてのキャリアも持つ、安食ジョイ(アンジキ・ジョイ)さんに4回に渡ってお話をお伺いしました。Vol.3は聖書学校時代の生活についてお話し頂きました。

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自分のため”から“誰かのため”へ。
安食ジョイが見つけた“使命”のかたち

レペゼン:
関西を中心にラッパーとして活動、UMB神戸チャンピオンにも輝き、ラップクルー「ABNORMAL BULUM@ 」として音源もリリースされていた安食さんでしたが、その後、聖書について学ぶ学校、聖書学校に入学されてますよね。今回はその経緯やそのきっかけを教えていただけますか?

安食ジョイ:

音楽活動ももちろん楽しかったのですが、当時「自分のこの先の人生をどう使っていくか」って考えた時に、音楽活動よりもっと直接的に人に関わっていきたいと思うようになったんです。

レペゼン:
ラップではなく、他の手段でということですか?

安食ジョイ:
そうですね。もちろん自分の音源を通して、聴く人に励ましや勇気を与えることもできるかもしれないけど、当時の自分はやっぱり“自分のために”ラップをやっていて。そうではなく“誰かのために”何かをしていきたい思いが強くなったのが転機ですね。それで何かラップ以外の手法があるんじゃないかなと考え始めたんです。

レペゼン:
それが、ご自身のルーツでもある牧師だったと?

安食ジョイ:
はい。それで当時のラップグループのメンバーに相談して聖書学校に入りました。ただ聖書学校に入ったのは牧師になりたいという思いがあったわけではなく自分探しのためでした。将来、自分にとってどういう形の仕事があるかとか、もっと広い意味で自分の使命を見つけるためには、自分の幼い頃から触れていて、自分のルーツでもあったキリスト教をきちんと学ぶ必要があるんじゃないかと思ったんですよね。それで奈良にある「関西聖書学院(KBI)」という全寮制の学校に入学しました。

レペゼン:
私、キリスト教の制度については全く知らないのですが、牧師になるためには聖書学校に行かないとだめなんですか?

安食ジョイ:
必ずしも聖書学校 を卒業していなければいけないというわけではありませんが、僕が今所属してる団体は、牧師になるためには聖書学校に3年通うことを推奨しています。ただ僕は牧師になるつもりはなかったので一年で学びを終えるつもりだったんです。
でも学ぶ中で「自分は牧師として働く使命が与えられてる」と確信を持つようになり、3年間通うことになりました。そのことを当時のメンバーに相談すると理解してくれました。感謝しかなかったですね。

 

聖書学校ってどんなところ?

レペゼン:
聖書学校ってどういう生活スタイルなんでしょう?下世話な質問で申し訳ないですが、お酒飲んだり、パーティー行ったりできるんですか?

安食ジョイ:
聖書学校自体は、規則正しい生活を送る中で、学校のように授業をうけるという感じです。週末は出かけたりもできますね。お酒は飲みませんでしたが、週末は梅田や難波に出かけて、ラッパーの友達と会ってご飯行ったり、レコーディングしたりしてましたね。

レペゼン:
ある程度自由なんですね!

安食ジョイ:
そうですね。でも聖書学校に入ってからお酒は飲まなくなりました。それはそういう教えがあるから飲まないというわけではなく、牧師っていつ何時人に呼ばれるかわからないという仕事なんです。例えば、夜中に誰かが亡くなられたという連絡を受けたらすぐ行かないといけないし、夜中に緊急の相談があるかもしれない、それにきちんと対応したいのでお酒は飲まないと決めていますね。

レペゼン:
なるほど。
聖書学校時代、大変だったことや苦労したことはありますか?

安食ジョイ:
野球部と同じ3年間だったのですが、振り返るとそれと全然違って聖書学校 の3年間は本当に楽しかったです。同年代で気の合う仲間も多かったですし。自分の人生の使命が見つかった時でもあったので。野球部の3年間はいくら積まれてもやりたくないですが、聖書学校 の3年間はこちらから払ってでももう一度したいくらいです。笑
それくらい自分の人生が変えられた貴重な時でした。

レペゼン:

安食ジョイ:
また聖書学校で大変なことって、対人関係とかよりも自分自身と向き合っていくという部分なのかなと思います。自分の中の良い部分と悪い部分を見つめ、その弱さと向き合っていくという自己理解の段階のしんどさっていうのはあると思います。

「スターほど孤独になる」── カニエとジャスティン・ビーバー、名声と信仰の狭間

レペゼン:
聖書学校時代によく聴いていた曲は何かありますか?

安食ジョイ:
やっぱりKanye West(カニエ・ウェスト)の「Jesus Walks」ですね。ゴスペルでラップをするという概念がなかったのですが、あの曲を聴いて「こういうスタイルで信仰的なことを表現していいんだ」って知って衝撃を受けました。

【 Kanye West「Jesus Walks」】

レペゼン:
安食さんからカニエってどう見えてるんですか?カニエはUSの大物ラッパーの中でも特に音楽作品におけるキリスト教的思想、信仰からの影響が強いアーティストの一人だと思いますが、一方でその精神的な不安定さもよく話題になります。例えば一例ですが、自分のことを「Yeezus」(Kanyeの ニックネーム“Ye”とイエス・キリストを意味する “Jesus”を掛け合わせた造語 )と言ったりすることについて、牧師としてどうお感じなのかなと。

安食ジョイ:
個人的には、そういった表現が出てきた時期はさすがに「?」とはなりましたね…
逆に彼がキリスト教の信仰に立ち返った時期はすごく良かったと思うんですけど….。ただ業界的に多くの誘惑に晒されることもあると思うんです。その中で、誠実に歩んでいくためには、信仰的なサポートしてくれるメンター的存在が必要だと思います。ここ数年で彼が特に精神的に不安定になっているのは、牧師なり、友人なり、精神的に支え寄り添ってくれる人がいないからではないかと。

レペゼン:
相談できる人がいないと?

安食ジョイ:
そんな気がしますね。カニエと対照的なのがJustin Bieber(ジャスティン・ビーバー)です。彼にはメンターとなるJuda Smith(ジュダ・スミス)っていう友人の牧師がいるんですよ。その彼との関係のおかげで、いろんな浮き沈みはあるけど、精神的にも安定し正しい道を選択することができているんだと思います。おそらくですが、カニエにはそういう人がいないと思います。

レペゼン:
なるほど。確かにセレブリティになればなるほど、そういった人を見つけるのって難しそうですよね…。

安食ジョイ:
私もカニエの思想や言動の全てに賛同しているわけではないのですが、当時、表現の1つとして「こういうのがあるんだと」気付かされたという意味では今でも間違いなく大きな存在ですね。

プロフィール

  • 安食ジョイ(アンジキ・ジョイ)

    安食ジョイ(アンジキ・ジョイ)

    1983年、栃木県宇都宮市生まれ。高校時代は作新学院硬式野球部に所属。関西学院大学神学部、関西聖書学院(KBI)を卒業後、栃木県・峰町キリスト教会の主任牧師に就任。ラッパーとしては、関西を拠点するラップクルー「ABNORMAL BULUM@」に所属し、UMB2007神戸予選で優勝した経歴も持つ。現在は週末の礼拝やカウンセリングを通じて聖書の言葉を伝える傍ら、ゴスペルラッパーとしても活動している。

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