ラッパーたちに影響を与えた映画やアニメのキャラシリーズ「Matrix – モーフィアス」|ストリートヘッズのバイブル Vol.119

映画史に残るサイバーパンク・ムービーがヒップホップに与えた影響とは?

ライター:TARO

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!
今回はラッパーたちに影響を与えた映画やアニメのキャラシリーズ「Matrix・モーフィアス編」。

『Matrix』とは?

仮想現実空間を舞台に人類とコンピュータとの戦いを描いたサイバーパンクSF映画。

ソフトウェア会社でプログラマーとして働くトーマス・アンダーソン(キアヌ・リーヴス)に、実はネオという名前の凄腕ハッカーとして活動する男。彼は起きているのに夢を見ているような不思議な感覚に悩まされており、「今生きているこの世界は、もしかしたら現実ではなのではないか」という自分でも上手く説明できない違和感を抱いていた。

そんなある日、トーマスのパソコンの画面に「起きろ、ネオ(Wake up, Neo.)」「マトリックスが見ている(The Matrix has you.)」「白ウサギについて行け(Follow the white rabbit.)」という謎のメッセージが表示される。

その後トリニティ(キャリー=アン・モス)と名乗る女性から接触を受けたネオは、ネオが探し求めていた答えを知る人物、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)と出会う。モーフィアスは、人類が現実だと思っている世界が実はコンピュータにより作り出された「マトリックス」と呼ばれる仮想世界であるという驚きの真実をネオに明かす。

現実の世界で目を覚ましたネオは、モーフィアスやトリニティとともに、コンピュータが支配する世界から人類を解放するために戦いに乗り出す。

①モーフィアスという導き手

シリーズ屈指の人気キャラであり、主人公ネオのメンター的役割を果たす“モーフィアス”。演じているのは『キング・オブ・ニューヨーク』『ボーイズ’ン・ザ・フッド』などの出演でも知られる黒人俳優ローレンス・フィッシュバーンだ。モーフィアスはコンピューターの支配から人類を解放しようとする戦士であり、強い信念を持ったリーダー。特に彼がネオに、

This is your last chance. After this, there is no turning back.
これは君の最後のチャンスだ。このあとは、もう戻れない。

You take the blue pill – the story ends,
青い薬を飲めば、お話は終わる。

you wake up in your bed and believe whatever you want to believe.
君はベッドで目を覚ます。そして信じたいものを信じればいい。

You take the red pill – you stay in Wonderland
赤い薬を飲めば、君は不思議の国にとどまる。

and I show you how deep the rabbit-hole goes.
このウサギ穴がどれだけ深いか見せてあげよう。

と語りかけるシーンは映画史に残る名シーンであり、この「red pill, blue pill」のラインはラップのリリックでも頻繁に引用されるパンチラインとなっているんだ。

②ヒップホップにおける「搾取と解放」

『マトリックス』の基本設定は近未来の地球では人類はコンピューターに支配されており、主人公である“ネオ”は囚われた人々を解放するためにコンピューターに戦いを挑むというもの。

実はこの設定こそがUSラップにおいて最も多く語られているテーマの一つである「搾取と解放」なんだ。アメリカにおけるアフリカ系の人々は数百年に渡り、アメリカ社会の中での搾取に苦しんできた。ヒップホップにはその搾取から抜け出して人間としての誇りを持って自由に生きていくという精神性が強く息づいている。

80年代のヒップホップ草創期にはパブリック・エネミーが「Fight The Power」で、そして90年以降はコモンやケンドリック・ラマー、そしてMFドゥームなどがこの「搾取と解放」について歌ってきた。

だからこそ『マトリックス』の中での“解放”を強烈に推進する人物であるモーフィアスはラッパーたちに広く受け入れられているんだ。

③モーフィアスについて歌ったパンチライン

モーフィアスについて歌ったラップソングは多くあるのだけど、今回は特にシカゴのラッパー、コモンの一曲「The 6th Sense」の一節を紹介したい。

I’d be lying if I said I didn’t want millions
金が欲しくないって言ったら嘘になるな
More than money saved, I wanna save children
でも金を貯めるより、子供たちを救いたい
Dealing with alcoholism and afrocentricity
アルコール中毒とアフロセントリシティを扱う
A complex man drawn off of simplicity
シンプリシティから吐き出された複雑な男
Reality is frisking me
現実がオレを刺激する
This industry will make you lose intensity
この業界はお前に激しさを失わせる
The Common Sense in me remembers the basement
オレの中のコモン・センスは地下室を思い出させる
I’m Morpheus in this hip-hop Matrix, exposing fake shit
オレはこのヒップホップ・マトリックスのモーフィアス、フェイクを暴く

ラップで稼いだお金を運用して取り組んでいるのがアフリカン・アメリカンの子供たちの将来のための支援活動。彼が立ち上げた子供の支援団体である“Common Ground Foundation”では、主にシカゴの貧困家庭の子供たちのための教育支援プログラムを提供しているんだ。 歌詞の中で出てくる “コモン・センス”は「社会人が持つべき概念や考え方」を指す言葉であり、コモンの初期のラッパー・ネームだ。そして“the basement(地下室)” は彼が20代前半に住んでいたアパートのこと。つまりコモン・センスという言葉は、彼をキャリア当初の気持ちに立ち返らせるということだね。 ラッパーとして常に社会的弱者の人々の立場に立、アフリカン・アメリカンの人々に対する差別や不平等について歌ってきたコモン。 そんなコモンのヒップホップ・シーンにおける存在は、まるで映画「マトリックス」で主人公ネオを導くメンターであるモーフィアスのようであり、業界にはびこるフェイクを暴くてわけだね。

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