ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のお気に入りの曲を毎月紹介していく「あの人の勝負曲」。今月は、元坂酒造株式会社|酒屋 八兵衛 の専務取締役の元坂新平(げんさか・しんぺい)さんをゲストにお迎えし、酒蔵としてのお話や、日本酒に合うヒップホップ曲などについて聞いていきます。第1回目の今回は元坂さんの経歴と「酒造りの時に聴くヒップホップ曲」について話して頂きました。
ヒップホップ好きの酒蔵・元坂新平
レペゼン:
自己紹介をお願いします。
元坂新平:
三重県の酒蔵、元坂酒造(げんさかしゅぞう)株式会社で日本酒を造る仕事をしている元坂新平(げんさか・しんぺい)と申します。1987年生まれ、35歳です。
会社の紹介をすると、創業が1805年。江戸時代末期、文化2年という時代ですね。今はうちの親父が6代目を継承してまして、私で7代目になりますね。
レペゼン:
ありがとうございます。
ヒップホップ好きの酒蔵さんという事でお話するのを楽しみにしてました。
まずは元坂酒造についてもう少し詳しくお伺いしたいのですが、江戸時代に始まってどういった経緯で現在まで至るのでしょうか?
元坂新平:
元々は自分が住んでいる三重県多気郡の庄屋だった“八兵衛”という人が始めた酒蔵ですね。
そこから4代、その“八兵衛”が継承されるんです。
レペゼン:
へー!!歌舞伎の名跡みたいですね!
元坂新平:
そうなんです。で、4代目まではその”八兵衛”が続いたんです。
ただ5代目”八兵衛”になる予定だった方が太平洋戦争に出征して戦死してしまって。
その親戚筋から跡取りをもうけたんです。
それが私の祖父母で。
レペゼン:
ほんとに日本の伝統文化のお家って感じですね。
元坂新平:
ですね。ただ私の祖父は“八兵衛”の名前をつがなかったんで、
そこでその世襲の名前は途絶えたんですけど。
レペゼン:
お家の直系の人間でないと、その名前を受け継げないということですか?
元坂新平:
いや、お爺ちゃんが普通に「和彦」として生きたかったって感じです笑
レペゼン:
なるほど笑
元坂新平:
ただ私の父が約40年前に蔵を継いだ時に、かつての世襲の名前だった“八兵衛”の名前を
ブランドとして残そうとして、“酒屋八兵衛”という名前の日本酒を造り始めたんです。
それが今、うちのメイン・プロダクトになってますね。
【三重県産伊勢錦から造られた日本酒 “ 酒屋八兵衛 ” 】
Photo by カワナアキ
生まれた時点で自分の人生が決まっているのが、めっちゃ嫌だった
レペゼン:
元々、家業を継ごうと思っていたんですか?
元坂新平:
いや全く。
それこそヒップホップじゃないですけど、生まれた時点で自分の人生が決まってるってのが、めちゃくちゃ嫌だったんです。
レペゼン:
なるほど。じゃあ若い時は親にも反抗したりとか?
元坂新平:
そうですね。高校生ぐらいの時から何回か家出を試みたりしてましたね。
とにかく地元から逃げ出そうとしまくってました。
レペゼン:
へー!
学生時代はどんな生徒だったんですか?
元坂新平:
中学、高校の時はただただイキってましたね。
煙草を吸ってみたり、原チャをノーヘルで乗り回してみたり。
今考えたらほんとイキってるだけみたいな。
でもそれも高1ぐらいまでですね。
レペゼン:
高1で何か変化があったんですか?
元坂新平:
そのくらいの時期にヒップホップに興味を持ち始めて、高校1年で地元のクラブでDJとしてイベントに出させてもらえるようになったんですよ。そこでそういったイキリみたいなのはなくなりましたね笑
レペゼン:
ヒップホップに夢中になっていったわけですね。
元坂新平:
そうそう。でもその分、家にはあんまり帰ってなかったですね。
ずっとヒップホップ好きの先輩とかに遊んでもらって、学校終わったら名古屋行くぞみたいな感じでした。
レペゼン:
高校卒業後は何をされてたんですか?
元坂新平:
卒業後は最初東京の音楽の専門学校に行って、ビート打ち込みとかを勉強してましたね。ただそれやってても何者にもなれへんかって。
それでその後は4年くらい東京でDJをやってました。
【DJ時代の元坂さん】
レペゼン:
ヒップホップのDJですか?
元坂新平:
ヒップホップですね。
ただDJって言ってもノルマ払ってイベントに出てただけです笑
とにかくちゃらんぽらんで、金もないしって感じで。
で、23歳の時に親から「ええ加減にしろ」みたいな感じで言われて。
レペゼン:
そこで思うところがあったと?
元坂新平:
ですね。その時に自分が好きな事をやってこれたのも先祖が代々守ってきた酒蔵があったからだと気付いたんです。もし自分が酒蔵を継がずに逃げてばかりいたら、自分が死んで先祖と同じ墓に入った時にめっちゃイジメられると思って。
それなら、先祖に褒めてもらえるような生き方をして墓に入ろうと。
レペゼン:
素晴らしいマインドですね。それで地元に帰ったんですか?
元坂新平:
そうです。そこから親父に付いて酒造りを始めたって感じです。
レペゼン:
面白い。
うちのメンバーに欲しいくらいの経歴です。
元坂新平:
ありがとうございます笑
コロナ禍で酒蔵が倒産寸前。どん底の毎日を救ってくれたNORIKIYOの一曲
レペゼン:
酒造りの時って音楽とか流すんですか?
元坂新平:
「麹造り(こうじづくり)」の作業の合間に聴いたりしてますね。
レペゼン:
「麹造り」というと?
元坂新平:
簡単に言うと米に麹菌という菌を増殖させて、酒造りに必要な酵素を作る作業ですね。
で、その時って夜通し2時間おきに米の温度を整える必要があって。
【麹造りの様子】
Photo by カワナアキ
レペゼン:
えー!!大変な作業ですね。
元坂新平:
そうしないと米の温度が上がりすぎて、麹菌がうまく米の中で増殖しないんです。
レペゼン:
なるほど。その作業中に音楽を聴いているんですか?
元坂新平:
いや、作業中は聴かないですね。実は「麹造り」って音も重要なんですよ。
米が発酵する時のプチプチって音をしっかり聴いて、その状態を確かめる必要があって。
それが聴こえないと何か変なことになってても、気付かなかったりするんです。
なので他の従業員の方がいない時、自分が一人で作業する時だけ音楽を流してますね。
レペゼン:
その時によく聴く曲はありますか?
元坂新平:
NORIKIYOさんの「暁 (feat. ACHARU)」です。
レペゼン:
良いすねー!
なぜ「暁」がお気に入りなんですか?
元坂新平:
コロナが流行って、酒がめっちゃ売れへんくなった時期があったんすよね。
飲食店が全部クローズになっちゃって。
家呑みとか、そういうのはあったけど、日本酒ってなかなか買ってもらえない。
うちもマジで7 割減みたいな状態になって。
レペゼン:
それはかなりキツイですね…。
元坂新平:
そう。それで絶対潰れるって思って、どん底の時やったんですけど、
その時にたまたまNORIKIYOさんのアルバムを聴いてて、「暁」が流れて。
そのリリックがハマりすぎて泣いてもーたんすよ。
レペゼン:
リリックで泣いちゃうことありますよね。
その時食らったのはどんなリリックだったんですか?
元坂新平:
最初のヴァースのリリックの、
悩む確かに 故にまじだりぃ
やられそうになる 世の虚しさに
無理に笑ってはさ それに蓋したり
するよりは 今日誰かにえくぼ足したい
恨むことより 出来りゃ癒したい
の部分ですね。
レペゼン:
めちゃめちゃ良いリリックですね。
元坂新平:
もう自信も全て失くして、日本酒終わったなぁなんて思ってた時に「いや違う違うと何かまだまだやれるぞ」って思わせてくれたのが、そのNORIKIYOさんの「暁」すね。いまだにきますね。これちゃんと見ると。
それぐらい突き刺さりました。
レペゼン:
それからよく聴くようになったんですか?
元坂新平:
特に凹んだ時にはよく聴いてます。
やっぱり仕事してると大変な時もあって、自分の気持ちがギスギスしてしまうこともあるんです。でも僕が酒造りしてる時にイラついたりしてたら、絶対飲む人も笑顔にならないと思うんすよね。
レペゼン:
確かに。
元坂新平:
そんな時に、お酒って何のために作るんやろって。
やっぱり飲む人に幸せになって欲しいから作るんですよね。
だからオレがイライラしたら、あかんなって。
レペゼン:
「暁」を聴くとそう思うと?
元坂新平:
そうですね。
この曲を聴くと、何か自分をちゃんと吊り上げてくれるって言うか、心のバランス取れる。そんな感じの曲ですね。
元坂さんが酒造りの時に聴くのはNORIKIYOの「暁 (feat. ACHARU)」!次回10月11日アップの第2回では移動時に聴くヒップホップを聞いていきます!お楽しみに!