みんな文化ディグってる?今回から始まった「ストリートのヘッズのバイブル」のコーナーでは音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!
第1回目に取り上げるのはコメディ・スター、エディー・マーフィー主演の映画『ハーレム・ナイト』。1930年代のニューヨーク・ハーレムを舞台にナイトクラブを経営するアフリカン・アメリカンの人々が敵対ギャングや警察と対立しつつも、自分たちの生き方を貫く様子を描いたクライム・コメディだ。 ヒップホップ好きならジャズやアフリカン・アメリカンの人々の文化の歴史を知るべきだよね?今回はヘッズのMUST WATCH映画『ハーレム・ナイト』を見るべき理由を5つ取り上げるよ!
『ハーレム・ナイト』とはどんな映画?
物語の始まりは1918年のニューヨーク・ハーレム。孤児の黒人少年クイックは、ハーレムで違法カジノを経営するシュガー・レイ(リチャード・プライヤー)の命を救ったことがきっかけで彼に引き取られ、息子として育てられる。
20年後、成長したクイック(エディー・マーフィー)はハーレム最大のナイトクラブの経営者となったシュガー・レイの右腕となっていた。 順調にビジネスをこなすシュガー・レイとクイックだが、ある日敵対ギャングのボス、バグジーが悪徳刑事のフィルを使ってレイに嫌がらせをし、売り上げをピンハネしようと画策してくる。
事態はハーレムを仕切るギャングたちと警察を巻き込んだ抗争に発展し、ピンチに追い込まれるシュガー・レイとクイックは敵対ギャングと警察をやっつける起死回生の作戦を計画する。
『ハーレム・ナイト』を
観るべき5つの理由
①映画評論家からは酷評されるも一般視聴者からの支持は高い
実はこの『ハーレム・ナイト』、評論家と一般視聴者の評価が真っ二つに分かれている作品。最低の映画に送られる不名誉な映画賞「ゴールデンラズベリー賞」の最低監督賞と最低脚本賞にノミネートされ、最低脚本賞を受賞。
評論家からは「コメディのオールスターを揃えたのに、紙のように薄い筋書きと痛々しいほど不格好な会話で台無しになってる」 「ド派手なギャングの世界以外のハーレム、貧困、汚い部分、痛み、人間性、ユーモア、そして危うさが欠けている。」などメッタギリにされているんだ。
ただ一般の映画ファンからは「クラシックなコメディ。ストーリーとキャラクターが大好き。今までで最高の映画!」「コメディとドラマのバランスが効果的。脚本にもハマっちゃう」などとアツい支持を獲得。映画ファンの間ではカルト的な人気を博す映画となっているんだ。
②エディー・マーフィーが全面的に監督した唯一の映画
実は『ハーレム・ナイト』はエディー・マーフィーの唯一の全面監督作品。公開当時の1989年は彼の俳優としてキャリアの絶頂期。
84年の『ビバリーヒルズ・コップ』、87年の『ビバリーヒルズ・コップ2』、88年の『星の王子 ニューヨークへ行く』と主演する映画が軒並み大ヒットを記録しており、彼の俳優としてのキャリアの中でも最も勢いのある時期だった。
ハリウッドを席巻していたエディーが勢いそのままに全面的に監督をしたのがこの『ハーレム・ナイト』なんだ。実際『ハーレム・ナイト』は興行収入的にはそこそこのヒットを記録したんだけど、「星の王子 ニューヨークへ行く」までには及ばず。
批評家からは「脚本がダメだ」「ギャング映画のくせに薄っぺらい」といった大批判を受けてしまう。
ちなみに同時期に世に出た黒人映画監督であるスパイク・リーは1990年の「SPIN」誌でのエディーとの対談で劇中のデラ・リースがエディー演じるクイックに撃たれるシーンは「デラ・リースを観ると自分のお婆ちゃんを思い出すので、マジで笑えなかった。」とエディーに直接辛口の批評をぶつけている。
同じブルックリン出身で年上のリーから笑えないと言われちゃったエディーはインタビューでは「でもあれはコメディなんだって」て言い返してるんだけど、実際は結構こたえてたのかもしれないね。
③三世代にわたるアメリカを代表する黒人コメディアンが共演
『ハーレム・ナイト』の大きな見所の一つが、エディー・マーフィー、リチャード・プライヤー、レッド・フォックスというアメリカの黒人スタンダップ・コメディアンの歴史そのものと言える著名コメディアンたちの共演だ。
特にリチャード・プライヤーの落ち着いた演技力は圧巻。随所に見せるシブすぎる立ち居振る舞い、吸い込まれてしまいそうになる深みのある表情、画面にいるだけで絵になる圧倒的な存在感、そして破天荒な気性のクイックを抑える良き親父としての姿。 脚本がチープだと言われがちの『ハーレム・ナイト』の中で絶対的な重厚感を持った錨としての役割を果たしているんだ。
④第62回アカデミー衣装デザイン賞にノミネートされた衣装
辛口の批評をされがちの『ハーレム・ナイト』だけど、実は批評家にも評価されている部分がある。それが「ハーレム・ルネサンス」と呼ばれた1920〜30年代当時の衣服を再現した華やかな衣装だ。
特に謎の美女ドミニク・ラルーとして登場するジャスミン・ガイの衣装は豪華絢爛。ゴージャスな赤いアンサンブルと登場したかと思えば、次のシーンでは黒い羽つきのドレスにダイヤモンドをブリンブリンで再登場、さらにピンクの羽毛のローブを着こなし、エディー演じるクイックを誘惑。まさにクラシックなドレスのファッション・ショーを楽しめる一作なんだ。
⑤美しいジャズの名曲のサントラ
映画の雰囲気を盛り上げるものといえばやはりサウンドトラック。「ハーレムナイト」では、デューク・エリントン、ルイ・アームストロングなど往年のジャズ・ミュージシャンの名曲が挿入歌として使用されている。
特にエンディングでのニューヨークの夜景をバックにしたデューク・エリントンの名曲「Drop Me Off in Harlem」は格別。エンディングを流しながら、ウイスキーを飲んで葉巻でもふかしたい気分になること間違いなしだ。
ちなみ「Drop Me Off in Harlem」は作詞家のニック・ケニーがデュークとタクシーに相乗りした際に、「デューク、どこへ行くんだい?」と聞いたところ、デュークが「Drop me off at Harlem(ハーレムで降ろしてくれ)」と言ったことにインスパイアされて作った曲とのこと。いやいやエピソードからお洒落すぎるだろて感じだよね。
エディーが本当に描きたかったもの
賛否両論ある『ハーレム・ナイト』だけど、それでもヒップホップカルチャー好きなら『ハーレム・ナイト』を絶対観るべき理由がある。それは『ハーレム・ナイト』こそがエディーが本当にやりたかったことを全て詰め込んだ映画だから。
黒人キャストメインのストーリーの中で描かれる渋くてカッコいいアフリカン・アメリカンの人々の姿。
白人警察にナイトクラブをガサ入れされ、100人以上のお客を逮捕されたシュガー・レイが逮捕された全員分の保釈金をキャッシュで支払い、囚われた人々を釈放させるシーン。
映画の中で描かれる白人からの差別や抑圧に対して、黒人たちが屈せずに立ち向かっていくというストーリーは今とは比べものにならないほど白人優位だった80年代のハリウッドで仕事をしていたエディーの内に秘めた黒人としてのマインドを表出するものだったのかもしれない。
それが脚本的につたなく、スパイク・リーの言うように笑えない演出があったとしても、エディーのアフリカン・アメリカンとしての誇りがこの映画には詰まっているんだ。
画像出典元:United International Pictures (UIP)
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