『ニュー・ジャック・シティ』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.167

ウェズリー・スナイプス、アイス・T出演。90年代ヒップホップ映画の金字塔。

ライター:TARO

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回取り上げるのはウェズリー・スナイプス、アイス・T主演のクライムアクションであり、当時のR&Bやラップアーティストが多数出演した『ニュー・ジャック・シティ(1991)』

『ニュー・ジャック・シティ』とは?

舞台は1980年代〜90年代にかけてのニューヨーク。ハーレムのストリートで生きていたニーノ・ブラウン(ウェズリー・スナイプス)は当時流行し始めていたコカインをベースにした依存性の高いドラッグ “クラック”に目をつけ、組織的な精製、販売を始める。

ニーノ率いるギャング団“Cash Money Brothers (CMB)”はドラッグのビジネスで巨大化し、やがて彼はハーレム裏社会の帝王として君臨することに。

一方、麻薬撲滅を目指すNY市警の刑事、スコッティー(アイス・T)らは特捜班を結成し、CMBの壊滅、そしてニーノの逮捕を画策する。ギャング団とNY市警、果たして最後に笑うのはどちらなのか。警察とCMBの熾烈な戦いが幕を開ける。

『ニュー・ジャック・シティ』
を見るべき5つの理由

①ヒップホップ版 “スカーフェイス”

この映画の見どころの一つは、ヒップホップ版“スカーフェイス”とも言える成り上がりストーリー。ウェズリー・スナイプス演じる主人公のニーノは元はストリートのハスラーだったが、その圧倒的なカリスマ性と指導力で自身のギャング団、“Cash Money Brothers (CMB)”を組織化、ドラッグビジネスで成り上がり、一大帝国を築き上げる。ギャングのボスとして金、女、権力を全て手に入れていくその様はまるで『スカーフェイス』でアル・パチーノが演じた”トニー・モンタナ”さながらだ。実際に本作の中ではニーノが『スカーフェイス』のビデオを流しているシーンなども挿入されており、ギャング映画の金字塔とされる『スカーフェイス』へのリスペクトを感じることができる。

② 90年代を代表する実力派キャストが集結

90年代〜2000年代のハリウッドを代表する役者、ウェズリー・スナイプスが主演という時点でまず注目なのだが、その他にもこの映画にに多くのスターたちがキャスティングされている。まずなんと言ってもマストチェックなのは西海岸ヒップホップの草創期に活躍したレジェンドラッパー、アイス・T。自身ギャングとして活動していた経験も持つ筋金入りのハードコアラッパーの彼が本作では信念を持った凄腕の刑事を演じている。また『ドゥ・ザ・ライト・シング(1989)』、『モ’・ベター・ブルース(1990)』などでスパイク・リー作品でもお馴染みの名優、ビル・ナンもギャング団、Cash Money Brothersの主要メンバーとして出演。さらに当時コメディアンとして人気を博し始めていた若手時代のクリス・ロックなど90年代、そしてその後にスーパースターになっていく人々が多く出演しているんだ。ちなみにアイス・Tの同僚刑事”パーク”を演じるアジア系俳優のラッセル・ワンはその後ジェット・リー、アリーヤ主演の『ロミオ・マスト・ダイ』などにもメインキャストで出演している名優。ぜひそちらもチェックしてみてね。

③ R&B、ラップシーンの豪華アーティストの出演

映画にシンガーやラッパーが出演することはハリウッドにおいては珍しくはないことなのだけど、『ニュー・ジャック・シティ』はその豪華さが異次元。80年代から90年代のR&Bシーンを席巻したスーパーグループ、ガイ、「Twisted」、「Nobody」などのヒット曲で知られるキース・スウェット、そしてパブリック・エネミーのハイプマン、フレイヴァー・フレイヴ、さらに伝説的音楽番組「Yo! MTV Raps」のホスト、ファブ・ファイヴ・フレディーなどヘッズならたまらないレジェンドアーティストたちが多く出演してるんだ。出演しているアーティストも含め、クイーン・ラティファやツー・ライヴ・クルーなども参加したサウンドトラックも超イケてるよ。

④ 80年代〜90年代最大の社会問題
クラック・エピデミックとは?

『ニュー・ジャック・シティ』のメインテーマである“クラック”。コカインを加工した薬物であり、1980年代〜90年代にかけて全米で大流行、特に貧困地域において深刻な影響を与えた非常に依存性の高いドラッグだ。ニーノはクラックをゲットーで売り捌き、自身の帝国を築き上げた男だが、実は元々コカインがアメリカに流入したのは当時の政府の政策が関係していると言われいている。

事の始まりは中米のニカラグアという国がアメリカに対抗する社会主義政権を樹立したこと。社会主義政権が気に食わないアメリカ側が考えたのがニカラグアの政府に対抗する反政府ゲリラ”コントラ”の支援だ。「コントラに武器をたくさん与えてニカラグアの政府をやっつけさせよう。」そう考えたアメリカ政府は大量の武器を飛行機でニカラグアに輸送する。ただそこに目をつけたのが南米の密売人たち。「アメリカから武器を積んでニカラグアに降ろした後、飛行機はカラになるやん。ほな、そこにコカイン積んでアメリカに持って帰ったらええやん!」という密輸方法だ。密輸作戦にはコントラも協力、アメリカへ麻薬を密輸して自分たちの活動資金を得ることになる。

このコカイン流入の動きを当時のアメリカ政権は知っていたが、コントラを支援し、社会主義政権を倒すこと優先だったので黙認していたのでは?と言われているんだ。そしてその結果として生まれたのが、コカインを加工した安価なドラッグ、クラックの大流行。貧困地域の若者はみなクラックの売買に手を染めはじめ、街は中毒者で溢れかえることになってしまう。さらにドラッグの取引によるトラブルでギャング同士の抗争が激化。若者たちは仕事もなく、ドラッグディーラーとして成り上がるか、抗争に巻き込まれて死ぬかという究極の状況の中で生きるという絶望的な状況が生まれてしまったんだ。

『ニュー・ジャック・シティ』で描かれるのはまさにその時代のゲットーの様子。クラックが引き起こす救いようのない絶望、ゲットーの現実、そして善と悪とは?というテーマを様々な人物の視点から描くことで単なるギャング映画ではない、多義的な啓発を含む作品になっているんだ。

⑤ カルチャーへの影響

『ニュー・ジャック・シティ』はヒップホップやR&Bシーンにも大きな影響を与えた作品。90年代に絶大な人気を誇ったR&Bジャンル “ニュー・ジャック・スイング”はこの映画にも出演しているR&Bグループ、ガイのメンバーであるテディー・ライリーが中心となって作り出した音楽ジャンルであり、“ニュー・ジャック・スイング”というジャンル名は映画プロデューサーの一人だったバリー・クーパーがテディーに提案したことから生まれたとも言われているんだ。またドレイクやニッキー・ミナージュなどを輩出したことでも知られるニューオーリンズのヒップホップレーベル「Cash Money Records」のレーベル名は、劇中のギャング団“Cash Money Brothers”に由来していたり、同レーベルの看板ラッパーである、リル・ウェインのアルバムシリーズ「Tha Carter」は作中でCMBが拠点とするアパートメント「The Carter Complex」からインスパイアされ、名付けられているなど、ヒップホップシーンの中でも様々な形でその影響の大きさを窺い知ることができる。

90年代のゲットーのリアルを描き、またその後のカルチャーに大きな影響を与えた『ニュー・ジャック・シティ』。ぜひこの機会にチェックしてみてね。