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「ストリートヘッズのバイブル」では、音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回紹介するのは、映画『ライオン・キング』(1994年)!
『ライオン・キング2』(1998年)、『ライオン・キング3』(2004年)など続編に続いて、2019年にはチャイルディッシュ・ガンビーノのラッパー名でも知られる俳優、ドナルド・グローヴァーと、ビヨンセという豪華タッグがメインの声優を務めたフルCG版、さらに同じくフルCG版の『ライオン・キング : ムファサ』(2024年)が公開されるなど、30年にわたって愛され続ける不朽の名作だ。
『ライオン・キング』とはどんな映画?
舞台はサバンナにある動物たちの国、プライド・ランド。王であるライオン、ムファサのもとに生まれ、将来の王位を約束された立場である主人公シンバは、家族や仲間と幸せな日々を送っていた。しかしある日、王の座を狙う叔父スカーにムファサを殺されただけでなく、「王が死んだのはお前のせいだ」と罪を着せられ、国を追われることに。失意の中、一時は自分を見失ったシンバだったが、仲間やパートナーの後押しで自身の使命を再確認し、王国を取り戻すべくスカーと対決することを決める。
生命の循環やアイデンティティの確立など、シンプルにして深いテーマが散りばめられた作品だ。
①最新技術も採用した迫力のアニメーション!
ディズニー作品が得意とする雄大な自然や動物たちのリアリティ溢れる動きや表情の描写は『ライオンキング』の魅力の1つであり、ずっと観ていたくなるほどの映像美だ。
特に、当時、アニメーションでも徐々に導入されていたCGI技術(コンピュータ上で作成した3Dモデルを動かすことで、効率的かつハイクオリティにアニメーションを作成する技術)を効果的に活用したシーンは見どころ。それがヌーの暴走シーンだ。デジタルで生み出した数頭のヌーをコンピュータ上で大量にコピーし、「ぶつかることを避けて渓谷を走り抜ける」というプログラムを開発することで、手描きの限界を超えた迫力を実現。ヌーの大群が崖を駆け降りてくるあの絶望感たるや…。
②聴くだけで心が動く!
黄金コンビが手がける劇中歌
『ライオン・キング』がミュージカルでも高い人気を誇る理由は、なんといっても劇中歌のクオリティだろう。力が湧き上がってくるようなパワフルな曲から感動的なラブソングまで、数々の名曲を生み出したのは、作曲家エルトン・ジョンと作詞家ティム・ライスのコンビ。『Circle Of Life』『Hakuna Matata』『Can you feel love tonight』なども、このゴールデン・コンビによる仕事だ。キャラクターたちの感情を際立たせるこれらの秀逸な音楽は、ぜひ実際に映画をチェックして体感して欲しい。
また『ライオン・キング』の象徴ともいうべきオープニング『Circle Of Life』の冒頭は、南アフリカ出身のシンガー/プロデューサーのレボ・Mさんが担当。しかも1回目のテイクがそのまま採用されたのだから驚きだよね。
③正しい“アフリカ”の描き方とは?
また『ライオン・キング』と同じく、アフリカを舞台にしたマーベル映画『ブラックパンサー』(2018年)と比較してみるのも面白い。
『ブラックパンサー』はアフリカの架空の国ワカンダの王子にして、守護者「ブラックパンサー」であり、スーパーパワーを持った主人公ティ・チャラが世界を守るために闘うヒーロームービー。監督のライアン・クーグラーや、主演のチャドウィック・ボーズマンをはじめ、アフリカンアメリカンを中心とする製作陣が“かっこいいアフリカ”を本気で描いた作品だ。
『ライオン・キング』と『ブラックパンサー』の間には、いくつかの共通点が見られる。例えば、血の繋がった親族に王の座を奪われて挫折を味わう主人公が再び奮起して最後の決闘に向かうという展開だったり、亡くなったお父さん=王が霊界的なところから主人公を見守って、大事な局面でアドバイスをくれるという重要なシーンだったり。
ただ、実はディズニーには、作中にアフリカンアメリカンやアジア人の特徴を意図的に誇張したキャラクターが登場するなど、人種差別的な表現が指摘されてきた歴史も存在する。そんなディズニーが初めてアフリカを本気で描いたのが『ライオン・キング』というわけだが、知能が低い悪役のハイエナのキャラの声を、ウーピー・ゴールドバーグや、メキシコ系の訛りを持つ声優が担当した点についてなど、人種的配慮に関する指摘は依然として多かった。とはいえ、どちらの作品もアフリカン・カルチャーを感じることができる作品であることは間違いない。先ほどあげた共通点の他にも、シンバとともに戦う雌ライオンと、ブラックパンサーとともにワカンダを守る女性の親衛隊(西アフリカのダホメ王国に実在した女性戦士がモデル)も、「闘う女性」という意味で共通するものがあったりと、アフリカン・カルチャーの魅力や奥深さを学べるポイントは多いはず。
二つの映画を改めて観て、正しいアフリカン・カルチャーの描き方について考えてみてもいいかも。
④古典劇の展開を巧みにオマージュしつつ
現代風にブラッシュアップ
「父親を叔父に殺された息子が復讐に立ち上がる」というストーリー構成は、シェイクスピア『ハムレット』と類似性があるし、さらに続編『ライオン・キング2』では、身分の違う(群れ同士が敵対していて相容れない)ライオンたちが恋に落ちるという『ロミオとジュリエット』的構成をとっている。つまり『ブラックパンサー』への何かしらの影響のようなものを感じる『ライオンキング』も、古典劇から着想を得ているということ。
そういった古典劇・アニメ・映画などのエンタメ文化のオマージュに着目すると、また違った視点で作品を楽しめるよ!
⑤今だからこそ響く!
「生命の輪」という普遍的なテーマ
『ライオンキング』で一貫して説かれるテーマが「Circle of Life(=生命の輪)」だ。作中では、ムファサがシンバに「王は自然界のバランスを知り、全ての生き物に敬意を払わないといけない。命あるものは大きな輪でつながっているんだ」と説くシーンが丁寧に描かれている。
一方で、この「生命の輪」を重視しないスカーが王になった結果、プライド・ランドは草も生えない荒野に…。なんとも分かりやすい対比だが、この荒野のシーン、現代人にとっても他人事ではない。貧困、紛争、環境破壊が深刻な現代において、『ライオンキング』が説く「輪」のスピリットに立ち返ることはもはや必須と言えるかもしれないし、「親ガチャ」「毒親」などの言葉が流行するほど家庭環境に陰りが見られる日本人にとっても学ぶものは多そう。
まだ観たことのない人も、何度も観た人も、今一度、オリジナル版『ライオンキング』の世界観とその哲学に触れてみてほしい。
画像出典元 : Walt Disney Studios Motion Pictures
配信先 : Disney+