パーティーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人達がいる。
彼らは何故、今の仕事を選んだのか?
このコーナーではパーティーというカルチャーに関わり続ける演出家たちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。
第八回は、DJだけでなくトラックメイクなどでも大活躍中のZUKIEさんのキャリアについてお送りします!今回も「DIG!かばんの中身」でもお馴染み、DJ SHUNSUKEとLeeがインタビューを行ってきました。
SHUNSUKE:
自己紹介をお願いします。
ZUKIE:
ZUKIEです。年齢は40歳で、DJの他に音楽プロデュース、ミックス、エンジニアといった音楽に関わる裏方仕事もよくやっています。出身地は北海道で、上京して20年なので東京の方が長くなっちゃいましたね。よろしくお願いします。
DJを始めたきっかけ
SHUNSUKE:
DJを始めたのは東京に来てからですか?
ZUKIE:
クラブで人からお金をいただいてDJをやったのは大学1年生の春ぐらいです。先輩に誘われて阿佐ヶ谷のちっちゃいクラブでやりました。初めて人前でやったのは高校の文化祭でした。
SHUNSUKE:
DJデビューは文化祭だったんですね。
Lee:
文化祭の前からDJに興味はあったんですか?
ZUKIE:
高校2年生ぐらいのときに、初めて札幌のプレシャスホールっていうクラブに遊びに行ったんです。本来は行っちゃダメなんですが笑
僕は全然知らなかったんですけど、そこは世界的に見てもめちゃくちゃ音が良いクラブで、音楽好きの猛者たちが集まるとんでもないお店だったんです。そこで強烈な音楽体験をして、その日から頭の中でDJのことしか考えられなくなるモヤモヤ病みたいなのにかかりました。
SHUNSUKE:
強烈な体験をしたんですね。
ZUKIE:
そうですね。昔のクラブは真っ暗で、どんな人がDJやってるかも何をやってるかもよくわからなかったけど、音楽がつなぐグルーヴが途切れずにずっとかかり続けてることはわかって。しかも昔の曲も新しい曲もやばい曲しかかかってなくて「これはやばいぞ、全部知りたい」って思いました。でもジロジロ見るのはちょっとダサイから、自然に覗き込んだりしながら笑
SHUNSUKE:
全部の曲がかっこいいみたいな。
ZUKIE:
ブラックミュージックが好きでソウルとかR&Bをずっと聴いてたんですけど、プレシャスホールはハウスミュージックとかダンスディスコがかかってて、踊らせることへの強烈な体験を受けました。めちゃくちゃ音楽オタクではあったんですけど、より肉体的な衝撃を受けたというか。クラブはちゃんと踊らせなきゃいけないみたいなのがあるじゃないですか。
それで言うと2001年に上京して初めていったクラブがイエローだったんですけど、ダンスミュージックといえばイエローだとみたいなイメージがありました。
SHUNSUKE:
東京の中でも圧倒的に音が良いお店として有名で、サウンドシステムがすごくよかったですよね。70年代とか80年代の曲がいまの曲みたいに聞こえるような、音の流れ方が計算し尽くされていて。音楽が好きな人が圧倒的に多い箱でしたね。
ZUKIE:
クラブの華やかさと音楽のコアな側面と両方持っていて、集まってくる人たちの熱気もすごくて僕にとってイエローはずっと憧れの場所でしたね。イレブンっていう名前に変わった後にレギュラーでやらせてもらうことになったんですけど、自分が見ていたDJブースに立てたときは嬉しかったですね。
SHUNSUKE:
我々の世代がかっこいいと思っていたクラブが、そこにありましたね。
血肉になっている衝撃を受けた楽曲たち
SHUNSUKE:
これまでに衝撃を受けた楽曲を教えてください。
ZUKIE:
Jam & Lewis(ジャム&ルイス)が僕の好きなものの99%ぐらいをやっちゃってるんですけど、彼らの音楽の集大成みたいな意味でS.O.S.バンドの『The FINEST』は、たぶん聴き飽きない曲ですね。一生「うぉー!」って痺れながら聴けるんだろうなと。あとはThe Gap Band(ギャップバンド)の『Yearning For Your Love』とか。
SHUNSUKE:
最高ですね。
ZUKIE:
あれは最後一生泣きながら走ってるんだろうな。何で走るかっていうと、走る振付があるんですよね。Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)とかStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)もそうなんですけど、自分が何百回も聴いて血になり体の一部になってる曲は、やっぱりいつ聴いてもテンションがブチ上がります。
SHUNSUKE:
間違いないですね。
ZUKIE:
目をつぶっててもDJでかけられる曲というか。もう自分の一部になってますね。
AIに代替されない人間の感性
Lee:
ZUKIEさんにとって音楽と身体はリンクしてるんですか?
ZUKIE:
そうだと思いますね。匂いに近いと思うんですけど、例えば香水の匂いを嗅ぐと付き合ってた女の子のことを思い出すとかあるじゃないですか。あとその時に流行ってた曲も思い出したり。音楽も同じで、曲を聴いて食らった強烈な体験を忘れていても、久々に聴くとその時の衝撃を思い出したりします。
Lee:
身体が衝撃を覚えてるんですね。おもしろい。
SHUNSUKE:
DJもそれぞれプレイスタイルがありますけど、時には人のそういうところを引き出すようなプレイができるとおもしろいなと思います。
ZUKIE:
それ、すごくわかります。
SHUNSUKE:
自分が本当に好きにやっていいよって言われたら、新しい旬な曲も30年前の古い曲もDJらしい工夫をしながらうまくプレイして、年代も飛び越えまくりたいです。工夫する事で古い曲がよりかっこよく聞こえるし、その曲でそのときを思い出す人もいるし、若い子には「めっちゃ流行った曲なんだよ」って教えたり。
ZUKIE:
僕も結構そういうタイプです。古い曲でも若い人たちにとっては、聴いた瞬間が新譜っていうのがすごく素晴らしいし一番羨ましい事だなと思っていて。
クラシックをかけるときにどう表現するかはDJの感性によって違いが出るじゃないですか。当時のチャートをただなぞってやる子もいるけど、自分の感性というフィルターを通して、今ならではの見え方とか新しい順番でかけてるのを聴いたときに、なかなかおもしろい感動があります。こういうふうにして人間はAIに勝っていくのかって。
Lee:
確かに。一人ひとり持ってる感性が違いますもんね。
ZUKIE:
当時の正確なチャートを順番にピックアップしていくだけだったら、絶対AIの方が抜け目なくできますよね。でもヒューマンエラー的に人間が忘れてる曲は、チャートで流行っててもパッとしない曲だったと思うんですよ。実際、流行ったけど今聴いたら大したことない曲っていっぱいあるじゃないですか。だから残らないし、人間の感性で「全然かっこよくないからかける必要がない」って判断したなら、それは素晴らしい取捨選択だと思います。
SHUNSUKE:
中には、なんでこんな良い曲が埋もれてたんだということが起きたりするからおもしろいですよね。若い子に「なんでそんな曲知ってるの?」みたいな曲をやられると、全部持っていかれちゃったと思ったりします。
ZUKIE:
結構やられますよね。本当に最近の若者たちは素晴らしいですよ。
後編に続く。