目 次
カルチャーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人達がいる。
彼らは何故、今の仕事を選んだのか?このコーナーではカルチャーに関わり続けるプレーヤーたちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。
今回はB-Boy編。ゲストはブレイクダンス世界一の称号を持つFOUND NATION(ファウンド・ネーション) のコアメンバーでありながら、ブレイキンに関するあらゆる事業を展開する「株式会社FNMD」代表としての顔を併せ持つB-Boy WINGZEROさんです。
唯一無二のB-Boyクルー「FOUND NATION」の最強GEEK、WINGZEROとは?
レペゼン:
自己紹介をお願いします。
WINGZERO:
FOUND NATIONというクルーでブレイクダンスをやってます、WINGZERO(ウイングゼロ)です。
38歳、山梨県出身です。
レペゼン:
ありがとうございます。では、早速なんですが、ブレイクダンスを始めたきっかけを教えてもらえますか?
WINGZERO:
きっかけは、中学3年生ぐらいの頃に、テレビでブレイクダンスを見たことですね。ウィンドミルとか、すごいかっこいいなと思って。最初は友達と体育館の隅で適当にやってた感じです。何もわからずにただ見よう見まねでしたけど。
レペゼン:
その時見たテレビって、どんな番組だったんですか?
WINGZERO:
確か『RAVE』とか、そういう系の番組だったと思います。でも、当時はそれが『RAVE』だっていうのはあんまり認識してなかったかな。その後、『めちゃイケ』でゴリさんと岡村さんがやってたブレイクダンスを見て、更にやりたくなって。そこがかなり大きかったです。
レペゼン:
テレビの影響がすごく強かった時代ですよね。
WINGZERO:
そうそう。それで高校に進んだ時に、ネット掲示板で練習仲間を探して、今のFOUND NATIONのメンバーと繋がったんです。
レペゼン:
掲示板ですか?ネットで?
WINGZERO:
いわゆる「ネットブレイカー」ってやつですね。ネット掲示板で「ブレイクダンスの練習仲間を探してます」って書いて。そしたらダンスをやりたいってやつらが集まったんです。当時は、まだまだインターネットが普及してきた時期で、MSNメッセンジャーとかでコミュニティを作って、ネット上で夜な夜なヒップホップの話をしてましたね。そのネットの友達の紹介で、今のチームメイトのDRAGON(ドラゴン)とも出会いました。
レペゼン:
面白い時代ですね。
WINGZERO:
当時はYouTubeもなくて、まだネットとかで北海道や広島、東京の人たちと動画の共有のやり取りをしていて。情報交換しながら、だんだんヒップホップの知識が増えていきました。あとVHSビデオの交換とかもしてましたね。広島に住んでるDJ KOPEROと繋がったのもその時期です。彼は元々B-Boyで。
レペゼン:
当時はビデオで情報交換していたんですね。
WINGZERO:
そう。自分の場合、イベントに行って手撮りして、それを勝手にVHS化してたんですよ。
今だから言えますが、自分が撮った「FREESTYLE SESSION JAPAN(フリースタイルセッションジャパン)」を人に送ったりしていました。広島では僕のそのビデオが結構出回ってたみたいです笑
ネット民の集まりが最強ブレイキンクルー「FOUND NATION」設立のきっかけ!?
レペゼン:
高校でドラゴンさんと出会って、その当時はまだFOUND NATIONは結成されていなかったんですか?
WINGZERO:
その頃はFOUND NATIONって形ではなかったです。終電まで一緒に練習して、帰るみたいな。でも、ちょうどその時期にBounce(バウンス)というB-Boyと出会って。バウンスが結成したクルー、FOUND NATIONに入れて頂いた感じです。
レペゼン:
FOUND NATIONが結成されたのはその時期だったんですね。
WINGZERO:
そうなんです。ただ、思いっきりバトルに出るというよりは、カルチャーのクルーって感じで。とにかくそのバウンスって人がメンター的な存在で、ヒップホップの知識を教えてくれていたんですよね。だから、自分たちはファミリーみたいな感じで一緒にいた感じです。今思うとあの時から、ダンスだけじゃなくて、ヒップホップカルチャー全体を学べたことが自分にとって大きな財産になっていますね。
レペゼン:
高校卒業後は大学進学で東京に?
WINGZERO:
そうです。大学に行けば親もサポートしてくれるだろうと思って、18歳で上京しました。東京に行くことで何か大きな変化が起きるんじゃないかと感じていましたね。田舎っぺあるあるです笑
レペゼン:
そこからは東京のバトルやイベントにも参加し始めたんですか?
WINGZERO:
そうですね。高校の時も山梨から東京の大会に出ていたのですが、最初は全然目立てなくて。頑張って1回戦勝てるぐらいで、なかなか結果が出せませんでしたね。ただその後、東京に来てから、少しずつ結果が出るようになって、チームを作りたいってなったんです。
レペゼン:
なるほど。
WINGZERO:
それで同世代のダンサーを集めて作ったのが「REAL SKOOL」というチームで。そこで活動を始めました。
レペゼン:
どんなメンバーで構成されていたんですか?
WINGZERO:
メンバーは、ラビットがうまい長野出身のポッツや、エアーが得意なモリモリ、トーマスが上手いヨシュア、あと小次郎、SHUVAN、アメリカ人留学生のヨーク、軟体系のタイシとかです。
みんな全国レベルの実力はあるけど、まだ名前が知られていなくて。それでみんなでチームを作って、大会に出ようと決めたんです。それが2006年のUK B-Boy チャンピオンシップですね。
レペゼン:
おぉ!!
WINGZERO:
ただ「リアルスクール」だけだと、ちょっとまだ弱いかなと思って、そこにドラゴンとDOVERMAN(ドーベルマン)も入ってもらって。「リアルスクール ファウンドネーション」ってチームで出て、関東予選ではベスト4に進めたんです。
無名のチームだったんですが、1回戦で「SIVA」を倒し、2回戦では「ダイナマイト関西」を倒し、ベスト4で「Motal Combat」に惜しくも敗れてしまいましたが、僕らとしてはかなり快挙な感じでしたね。
レペゼン:
すごく印象的な結果だったんですね。
WINGZERO:
そうですね。ただ、それで「リアルスクール」が燃え尽きちゃって。じゃファウンドでやろうとなって、それがファウンドで本格的にバトルに出始めるきっかけでしたね。ファウンドはカルチャー志向、ファミリーというか、バトルに出るチームではなかったんですけど、そこから本格的にバトルでも頑張ろうってなって。2007年にも出場して、ベスト4、で、2008年にはついに「UK B-Boy Japan」を制覇して、世界大会に出場できたんです。それが大きなターニングポイントでしたね。
2008年 FREESTYLE SESSIONで世界2位
WINGZERO:
2008年にはフリースタイルセッションLAの本戦にも挑戦して、2位になりました。その経験も大きかったです。
特に印象に残っているのが、アメリカ予選で一度落選って伝えられて、クソ落ち込んでホテルで反省会をしていたら、後で「間違いでした。実は通過していました。」と連絡が来て笑
「うぉぉぉーーーー!!!」みたいな感じでしたね。それで一気に空気が変わりました。
レペゼン:
すごいドラマですね。
WINGZERO:
予選落ちしたと思っていたので、一転して決勝に進めることが最高すぎて。
その勢いでかなり快進撃できたんです。本戦トーナメントで、当時、世界最強って言われていた「Killafornia」というチームとも戦って、勝つことができたんですよ。ただ、決勝では負けちゃいましたけど笑
でも、あの大会で日本人クルーが2位になったのは、当時としては快挙だったと思います。
最強文化系B-Boy、WINGZEROの頭の中
レペゼン:
それ以降もファウンドはずっと活躍されていますけど、長くシーンにいるウイングさんにとって、今のダンスシーンってどんな感じですか?
WINGZERO:
時代の流れでシーンが変わるのは、自然な成り行きとして受け入れています。それが良いことか悪いことかを議論するより、今をどう活かすかが大事だと思いますね。ただ、一つ言うとすれば、クルーバトルが減ったのは少し寂しいです。
レペゼン:
確かに。最近は少ないかも。
WINGZERO:
クルーの魅力や可能性が十分に伝わっていないのかもしれないですね。ただクルーってめっちゃ良くて。クルーがあることで、学べることがたくさんある。海外イベントでも「このチームから誰かを呼びたい」と声がかかることだってあるし。ソロで活動していたら呼ばれなかった場所に行けることもありますし、チームで共有できる喜びは大きいです。
レペゼン:
良いですね。
WINGZERO:
あとクルーがあることで、協調性や人間的な成長も得られますよね。自分、「兄弟がいるみたい」とよく言われるんですが、一人っ子なんですよ。それだけクルーって自分を成長させてくれるもので。
レペゼン:
クルーバトルが減った理由って何かあるんですかね?
WINGZERO:
RED BULL BC ONEやオリンピックみたいな個人競技が主流になった影響もあるかも。それに加えて、練習場所が昔と変わりましたよね。昔はストリートで自然にみんな集まって、そこでクルーが生まれていたけど、今はスタジオ単位で練習することが増えてる。ストリートで集まる文化が薄れてきたのも理由の一つだと思います。
レペゼン:
でも、チームがあると本当に楽しいですよね。発信力もありますし、個人ではできない大きなことに挑戦できるし。そういったカルチャーがまた広がると良いなと思います。
WINGZERO:
そうですね。あと今は昔よりインフラが整っているので、もっと世界に挑戦する人が増えてほしいですね。例えば、チームで海外のイベントに行って、バトルに出たり、旅行を兼ねて新しい文化に触れたりして、人間として成長していけると思うんです。自分でチケットを手配したり、プランを立てたり、知らない人とコミュニケーションを取ったり、英語を学んだり。そうした経験がダンスだけでなく、人生にとっても貴重だと思います。それに、チーム内でケンカすることだって経験の一つです。
レペゼン:
間違いないですね。
WINGZERO:
ただ、「やらされる」のではなく、自分の意思で挑戦してほしいってのはあるかな。強制されてやると面白くないしね。一歩踏み出して挑戦してみて、それで嫌だったらやめてもいい。それくらいのスタンスで楽しむのが一番だと思います。
レペゼン:
素晴らしいです。
まさにウイングさんが、今クルーのメンバーや会社でやっている活動そのものですね。
WINGZERO:
そうですね。でも、世代が変わってきているので、気をつけないと老害になっちゃう笑
上の世代の話ばかり聞かされると、若い人たちは「そんなこと知らないよ」と思うじゃないですか。でも、その背景があるからこそ今があるわけで、初心を忘れないことも大事かなと。その時代に合った伝え方や行動をしながら、過去の良い部分も活かしていく。そのバランス感覚は常に持っておきたいなと思います。
プロフィール
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日本が世界に誇るトップ・B-Boy。ブレイクダンスチームFOUND NATION(ファウンド・ネーション) のコアメンバー。基礎力の高いフットワークに加え、コミカルかつスタイリッシュなダンススタイルはジャンルを超え多方面のダンサーに支持されている。 オランダで毎年行われているブレイクダンスの世界大会・IBEのフットワーク部門で2012年・2013年と二年連続で優勝。2016年にはFREESTYLESESSION WORLD FINALの3vs3部門にメンバーのRYO-FLOW、ISSEIと出場し、日本人CREW初優勝を成し遂げた。現在は株式会社FNMDの代表として、ダンサーのマネジメントやキャスティングを行う他、YouTubeチャンネル「FLAVAJAPAN - ブレイクダンス TV -」のプロデュースを行なっている。