温故知新、ジャズ喫茶「PABLO」で世代を超えて響き合うサンプリング文化

DJとしても活動するジャズ喫茶のマスターが伝えたいヒップホップマインド

ライター:TARO

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアや仕事について全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月のゲストは宮城県名取市でジャズ喫茶「PABLO」を経営されている村上辰大(むらかみ・たつひろ)さん。“ DJ辰 ”名義でヒップホップイベントやダンスバトルなどでもDJをされている村上さんのヒップホップキャリアについてお伺いしました。Vol.4はジャズ喫茶「PABLO」、そして音楽を通してつながるコミュニティについて。

前回の記事はこちら→ 宮城県名取市のジャズ喫茶「PABLO」二代目マスター、村上辰大 a.k.a. DJ辰とは?

温故知新、世代を超えて響き合うサンプリング文化

レペゼン:
今回は村上さんがジャズ喫茶「PABLO」を通して伝えたいことを教えてください。

PABLO 村上辰大:
やっぱりまずは「音楽を聴いて欲しい」ということですかね。最近の若い世代はSpotifyなどのストリーミングサービスでなんとなく音楽を聴いてると思うのですが、そうではなく例えばレコードなどのフィジカルで聴く、空間で聴く、そういうことをして欲しいなと感じてます。それがもちろんクラブでも良いし、ジャズ喫茶もそういった場所の一つなのかなと思います。

レペゼン:
良いですね。レコードはフィジカル音源ならではの音質の高さや温かみもありますが、最近はインテリアとしても再度人気が高まってます。「PABLO」でもレコードを飾ってらっしゃいますよね。

PABLO 村上辰大:
そうですね。自分のお気に入りのレコードを飾ってます。上下に飾っているもの意味があって
上が Hip Hop のレコード、下が上のレコードの元ネタのジャズになります。特にヒップホップですと、 Souls of Mischief(ソウルズ・オブ・ミスチーフ)の「93 ‘Til Infinity」やNas(ナズ)の『Illmatic』がお気に入りですね。サンプリングの文脈でいうと、『Illmatic』収録の「The World Is Yours」の元ネタは、Ahmad Jamal Trio(アーマッド・ジャマル・トリオ)「I Love Music」というジャズソングで。そのあたりも「PABLO」でかけたりしてますね。

【Nas – The World Is Yours】

【 Ahmad Jamal Trio – I Love Music 】

レペゼン:
勉強になります。

PABLO 村上辰大:
特に「PABLO」では音楽を通して人をつなげるということを意識してて。具体的にはサンプリングですね。例えば、ヒップホップのサンプリング元のジャズ曲を流すと、若い世代の方から「これがあの曲の元ネタなんですね!」という驚きの声をいただくことが多いです。一方で、サンプリングされたヒップホップのレコードを流すと年配の方は「今こんな風にアレンジされてるんだ」と反応されたり。「PABLO」はそうしたサンプリングのカルチャーで、世代をつないでいく場所にしていきたいですね。

レペゼン:
素晴らしいです。お店のお客さんは音楽好きの方が多いですか?

PABLO 村上辰大:
音楽好きの方はもちろんですが、アートやダンスに興味がある方たちも来てくれます。あとは、昭和レトロカルチャーの人気もあって、そういった文化を体験したいという方もいらっしゃいます。初代マスターの時から来ている常連さんをはじめ、多様な人々が集まることで、音楽を通じて新しいつながりが生まれているのを感じますね。

レペゼン:
何か音楽イベントなどは行われているんですか?

PABLO 村上辰大:
コロナ前まではジャズライブなどを年に数回行っていました。 ライブの中でジャズバンドと DJ でサンプリングテーマに セッションをしていて。例えば、スチャダラパーさんの「Summer Jam ’95」の元ネタである Bobby Hutcherson の「Montara」をかけた後に、 Summer Jam ‘95 につないで、最後にジャズバンドが Montara を 演奏するという流れです。

【バンドセッションの様子】

【スチャダラパー – Summer Jam ’95】

【 Bobby Hutcherson – Montara】

レペゼン:
めっちゃ学べるし、面白いですね。

PABLO 村上辰大:
私は「温故知新」という言葉が一番好きで。やっぱり古き良きものへのリスペクトを持ちながら、自分たちなりに昇華していくというか。ヒップホップってそうじゃないですか?昔のジャズやファンクをサンプリングして今風にアレンジしてラップを乗せるっていう。
なので私も自分が思うカッコイイを「PABLO」にうまく上乗せして、“古くて新しいジャズ喫茶”を作っていければと考えています。

ヒップホップから学んだ「リスペクト」と「レペゼン」の精神

レペゼン:
村上さんご自身のバックグラウンド、特にDJやダンスの経験が今のお店づくりにどう活きていると感じますか?

PABLO 村上辰大:
やっぱり「リスペクト」ですかね。ダンスバトルの現場では、年齢やキャリアに関係なく良いムーヴをかました相手に拍手を送るじゃないですか。老若男女関係ない。盛り上がったものがちというか。肩書きとかじゃなく、その人が本質的に持っているものに対して敬意を払うということ。リスペクトですよね。誰に対しても、一人の人間としてのリスペクトを持って接するというのはダンスを通して学んだことです。

レペゼン:
そのリスペクトの感覚、意外に世の中的には持っている人が少ない感覚ですね。

PABLO 村上辰大:
その感覚を学ぶことができたのはDJやダンスをしていたからだと思いますね。あと、もう一つはレペゼンです。自分のルーツを誇るということですね。
私は東北出身なので、東北のシーンや文化を誇りに思っています。なので例えばDJとして東京や大阪などの大きな都市に行っても、その土地に負けないようなパフォーマンスをかましたい、東北カッケーから負けねぇぞという意識が常にありますね。それは自分がやっている映像制作の仕事、DJ、そしてPABLOの経営の全てで常に持っている心構えですね。

ルーツを学び、次の世代へつなげる。DJ辰が伝えたいジャズの名曲

レペゼン:
今回「温故知新」の精神の大切さをお話し頂きました。村上さんの中で、その精神を象徴するような一曲、そして若い世代へも伝えていきたいジャズソングを一曲お伺いしたいです。

PABLO 村上辰大:
正直一曲には決めれないです笑
ただあえて言うと、Blue Lab Beats(ブルー・ラブ・ビーツ)の「Montara」 かなと。

【 Blue Lab Beats  – Montara 】

PABLO 村上辰大:
近年、ジャズがヒップホップよりになったり、逆にヒップホップがジャジーな感じになったりとクロスオーバーしている中、素晴らしいバランスでジャズ好きにも、ヒップホップ好きにも刺さる曲かと思います。この曲のサンプリングのように、私も「PABLO」という場所をサンプリングし、古き良きものに敬意を払いながら、ジャズ喫茶や音楽をスピーカーで聴く良さを現代に発信していきたいです。

レペゼン:
素敵です。改めてこの度はお忙しい中、誠にありがとうございました!

PABLO 村上辰大:
ありがとうございました!

プロフィール

  • 村上辰大(むらかみ・たつひろ)

    村上辰大(むらかみ・たつひろ)

    宮城県名取市のジャズ喫茶「PABLO」の二代目マスター。平日は株式会社ユジクラフトの映像クリエーターとして活動し、週末はDJ辰としてDJ活動を行う。海外および国内のダンスイベントでDJを務める、「音楽×映像」のハイブリッドクリエーター。 「COFFEE & SESSION PABLO」は、震災で主を失ったジャズ喫茶「Jazz in パブロ」を現在の店主、村上さんと半澤 さんが2017年12月に引き継ぎ、新たに誕生したジャズ喫茶。震災当時のまま時間が止まった店内に再び灯をともす場所として再生された。壁一面に配置されたスピーカーからはJazz、Jazzy Hip Hopなど多彩な音楽が流れ、コーヒーカップの黒い水面を揺らしている。古くからの常連客と新たな若い世代が集い、音と人とのセッションが生まれる空間となっている。