ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについてインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月は日本を代表する靴職人の一人であり、スパイク・リーやエイドリアン・ブロディなどへの製作実績を持つ、靴職人&アーティスト・三澤則行(みさわ・のりゆき)さんに全4回に渡って、お話をお伺いしました。
前回までの記事はこちら→ 世界で活躍する靴職人、三澤則行のヒップホップなキャリアとは?
カンヌ映画祭への出展とスパイク・リー監督との出会い
【三澤さんの作品】
レペゼン:
オーストリアでの修行を終え、日本に帰って来られてからは、どう展開されていったんですか?
三澤則行:
東京に工房を構えて、オーダーメイドの靴作りと自分の靴アートの制作を始めました。
レペゼン:
当時は、靴アートへの周りの評価ってどんな感じだったんですか?
三澤則行:
良くはなかったですね。
靴業界からは、変なことやってると思われていたと思います。
結構つらかったですね。
レペゼン:
つらいですね…
その状況が変わっていくきっかけは何かあったのでしょうか?
三澤則行:
工房を地道にやっていく中で、僕の靴をすごく気に入ってくれたお客様がいて、その方が「あなたの靴は素晴らしいから、世界に出るべきだ。自分なら世界に出してあげられる」と言ってくれて。
そしたらどうやらその方が、カンヌ映画祭にコネクションがある方で。そこからカンヌ映画祭に出展させてもらえることになったんです。
レペゼン:
えーー!!
そんなことあるんですね!!
三澤則行:
出展の場所だけは用意するから、あとは全部自分でやれと。そこで成功できるんだったら本物だからやってみない?っていうことで挑戦させてもらった感じですね。
レペゼン:
カンヌ映画祭に出展ってどんな感じなんですか?
三澤則行:
厳密に言うと、カンヌ映画祭にオフィシャルで組み込まれたプログラムではないんですが、映画祭のスケジュールと連動した展示イベントでした。イベントの主催者が世界の芸能界に通じてる人で、VIPを1日に20〜30組ほど連れてくるんです。
レペゼン:
一体どんな方が来るんですか?
三澤則行:
著名な方だと映画監督のスパイク・リー、そして俳優のエイドリアン・ブロディなどですね。
【三澤さんの靴を持つスパイク・リー監督】
レペゼン:
すごすぎる..
超一流の方々…。
三澤則行:
そうですね。僕も「次誰来るの?」みたいな感じで。
スパイク・リーにはかなり気に入ってもらって、二足注文してもらいました。サインまでもらって。
レペゼン:
えー!
やばすぎる!
三澤則行:
こちらです。
靴の木型にサインをいただきました。
【スパイク・リー監督のサイン入り木型】
レペゼン:
うわーー!!
やばいです!!
三澤則行:
エイドリアン・ブロディにも発注頂きました。本当に夢のような時間でしたね。
【エイドリアン・ブロディと】
レペゼン:
すごい!!
そんな世界的有名人の方々の靴を制作したら、相当周りの評価も変わったんじゃないですか?
三澤則行:
そう思ってたんですが、日本に帰ってきてみたら意外とみんな普通で。
僕はもう世界取ったみたいな感覚だったんですけど、日本で周りに話しても「スパイク・リーってどんな人?」みたいな。
レペゼン:
なんたることだ..。
三澤則行:
映画好きだったら当然知ってる存在なんですが、やはり日本の有名人じゃないと、日本での評価ってなかなか変わらないのかなと思いましたね。ただもちろんしっかり評価してくれる人もいましたし、そこからメディア出演なども増えたので、状況はかなり変わっていきました。徐々に芸能関連の方など、日本の著名な方からもお話を頂けるようになったので、本当にカンヌはありがたい経験でしたね。
靴職人を辞めようと思った時、Mummy-Dのリリックが救ってくれた
レペゼン:
ではカンヌ映画祭以降はお仕事は順調という感じでしょうか?
三澤則行:
なかなかそうでもなく…
実は2年ほど前に大きな仕事の話がすごいディスられる形でポシャってしまって。
靴職人を辞めようとまで思ったことがあったんです。
ただその時にも日本語ラップに助けられました。
レペゼン:
具体的に何という曲でしょうか?
三澤則行:
Nulbarich(ナルバリッチ)のEPに入ってる「Be Alright feat. Mummy-D」です。
レペゼン:
どういった部分が好きだったんですか?
三澤則行:
曲がかっこいいのはもちろんなんですが、Mummy-Dさんのリリックがすごく響いて。
特に好きなリリックが
続けた ヤツがたどり着く僻地
続けた ヤツだけが見れる景色
の部分で、この言葉は本当に励みになりました。
この曲を聴いて、靴職人を続けていく勇気をもらえたんです。
レペゼン:
まさに三澤さんを救ってくれた一曲ですね。
三澤則行:
そうなんです。
あと、
他人のサクセスは自分のサクセス?むしろ逆です。かなりジェラスです
世界のすべてがオレにアゲインスト、みたいな気持ちがどうしてもCan’t Stop
アイツにゃかなわねぇ、ソイツにゃかなわねぇ、オレにゃどうしたって華がねぇ
のリリックもかなりくらいました。
Mummy-Dさんって成功してるように見えて、ずっと周りにジェラスを感じてきたと。僕も他の人の活躍が本当にきつかったり、「なんで自分は」みたいにすぐになったりしてしまうので、Mummy-Dさんでもそんな感じなんだと思うと、ありがたかった。
レペゼン:
Mummy-Dさんがそれを言うと、昔からのヘッズとしてはグッとくるものがありますよね。
三澤則行:
もう世間的に評価されるとかは気にせずに、作りたいものを作ってればいいやっていう考え方に変わりました。
オレたちの「敗者復活戦」
レペゼン:
ヒップホップ業界でプレーヤーとしてのキャリア、例えばラッパーやダンサー、そしてDJなどを目指していたけれど、なかなかうまくいかず、挫折してる人って多いと思うんです。三澤さんも若い頃は本気でプロのDJを目指していたけど、いろいろと挫折も経験して、靴職人の世界に進まれたとお伺いしました。プレーヤーとしてはうまくいかなくても、ヒップホップのマインドを持って、新しいキャリアに向かう人々に向けてメッセージをお願いします。
三澤則行:
僕は結局、DJは仕事にならなかったんですね。ただ音楽、特に日本語ラップは自分の物作りにめちゃくちゃ影響を及ぼしてます。自分からヒップホップを抜いたら、今の仕事もわけわかんないことになってます。ヒップホップは僕にとってそれぐらい大きいものです。
だからみんなヒップホップに直接関係ない仕事だったとしても、楽しんで音楽を聴いてればいいんじゃないですかね。
それだけで人生が豊かになるし、仕事も変わってくるだろうし、生き方すら変わるんじゃないかな。僕に関しては作品に10%〜20%っていうレベルで、日本語ラップが食い込んできてるので欠かせないけど、皆さんもそうなんじゃないかなって思います。
レペゼン:
ありがとうございます。
最高の応援メッセージだと思います。
今後の三澤さんの活動についても教えてください。
三澤則行:
直近ですと、鉄腕アトムとのコラボレーション作品を発表します。オブジェみたいな感じなんですけど。僕のインスタ、またはWebサイトでチェックしてもらえれば嬉しいです。あとは工房の方で、靴作りをしたことがない人やものづくりやったことない人が通える教室もしています。まずはめちゃくちゃ気楽な感じでトライしてもらっても良いかなと思います。
三澤さんの靴作り教室の詳細はこちらから→THE SHOEMAKER’S CLASS
レペゼン:
靴作り、楽しそうです!
この度は本当にありがとうございました!
三澤則行:
ありがとうございました!
プロフィール
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1980年生まれ、宮城県出身。幼い頃から母親の趣味である美術画集に囲まれて育ち、工作や絵画に没頭した少年時代を送る。大学時代はヒップホップ音楽に没頭し、プロのDJを目指した。この頃に培ったヒップホップ・マインドは現在の活動、作品製作にも大きく影響している。大学3年生のとき、地元のとある革靴店との偶然の出会いから靴づくりの道に。靴職人として東京・浅草とオーストリア・ウィーンで10年間修業した後、2011年に自分の工房兼靴教室を東京・荒川に構える。2017年にはフランス・カンヌ映画祭で展示会を開催。日本とヨーロッパで培われたアートの感性、そして精緻な技術によって生み出される造形美はまさに唯一無二であり、スパイク・リーやエイドリアン・ブロディなど世界的なセレブリティへの制作実績を持つ。 近年はアメリカで開催される国際的な靴のコンクール「GLOBAL FOOTWEAR AWARDS」で2年連続で受賞するなど、今世界で最も注目される靴職人の一人。