ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについてインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月は栃木県宇都宮市にある峰町キリスト教会に所属する牧師であり、ラッパーとしてのキャリアも持つ、安食ジョイ(アンジキ・ジョイ)さんに4回に渡って、お話をお伺いしました。Vol.1の今回は安食さんの牧師としての活動、そしてゴスペルラップについてお話し頂きました。
前回の記事はこちら→ ヒップホップ愛あふれる店主が守る、福岡の老舗・金屋食堂
牧師であり、ラッパー。安食ジョイとは?
レペゼン:
自己紹介をお願いします。
安食ジョイ:
安食滋良(アンジキ・ジョイ)※以下安食ジョイ表記 と申します。栃木県宇都宮市にある峰町キリスト教会で牧師をしています。ラップミュージックも大好きで、以前はクルーを組んでいたこともあります。UMBなどのバトルイベントにも出場していました。
レペゼン:
ありがとうございます。
安食さんは、UMB 2007の神戸準予選で優勝されるほどのフリースタイラー、そしてNAGAN SERVER(ナガンサーバー)さんらが所属したラップクルー「ABNORMAL BULUM@ 」のメンバーでもあるということでインタビューさせて頂くのを楽しみにしておりました。まずは現在のお仕事、牧師としての活動についてお伺いさせてください。
安食ジョイ:
今は平日は小中学校や色々な場所で聖書の話をすることが仕事の中心になっています。また週末は礼拝もあり土曜日に2回、日曜日に3回、それぞれ30分ほどのメッセージを話しています。
レペゼン:
どういったことをお話しされるのですか?
安食ジョイ:
平日の小中学校や講演では道徳的なテーマに沿って聖書から話をすることが多いです。また週末の礼拝では、聖書の各章を順番に取り上げていくスタイルです。今週はここまで、来週は続きを、という感じですね。その中から、現代の生活にどうつながるかを紐解いて話しています。
レペゼン:
なるほど。聖書の言葉を、現代の日本人にもわかりやすい形で伝えていくと?
安食ジョイ:
そうです。聖書は2000―3500年前の中東で主に書かれたものなので、文化的背景が違う日本人がそのまま読んでも理解が難しいと思います。でも、そこに書かれている真理は普遍なので、それを現代の人に分かりやすく伝えたいと思っています。
信仰とビートの交差点──
“ゴスペル・ラップ”のきっかけは
カニエ・ウェスト
レペゼン:
所属されている峰町キリスト教会はどういった教会なのでしょうか?
安食ジョイ:
キリスト教には大きく分けてカトリックとプロテスタントがありますが、私が所属している峰町キリスト教会はプロテスタントの教会です。1960年代にスウェーデン・ホーリネス系の宣教師が栃木に来て、いくつか教会を作ったうちの一つです。今では土日あわせて300人くらいの方が礼拝に来られています。
レペゼン:
300人も!すごいですね!信者の方とのコミュニケーションとしては、礼拝でのお話しのみなのでしょうか?
安食ジョイ:
メインはそうですが、教会を訪れる方の相談に乗ったり、カウンセリングしたりもしています。
レペゼン:
カウンセリングもされるんですね!
安食ジョイ:
はい。たとえば夫婦関係や子育ての悩みだったり、誰かの紹介で「ちょっと話を聞いてほしい」と連絡を頂くこともあります。また、クリスチャンでなくても一般教養として聖書を学びたい(聖書は世界一のベストセラー)という方もいるので、4回でキリスト教信仰がわかるテキストを用いて、対面やオンラインでバイブルスタディーをしたりしています。クリスチャンではない方との関わりも多いです。
レペゼン:
興味深いです。そんな中で“ゴスペル・ラップ”というものを実践されていると拝見したのですが。
安食ジョイ:
そうですね。元々ラップ自体は昔から好きで、プレーヤーとしても長くやっていたのですが、“ゴスペル・ラップ”を始めたきっかけとしてはカニエ・ウエストの『Jesus Walks』ですね。
【 Kanye West – Jesus Walks 】
God, show me the way because the Devil’s tryna break me down
(Jesus, walk with me)
The only thing that I pray is that my feet don’t fail me now神よ、どうかオレに道を示してくれ、悪魔がオレを壊そうとしてるから
(ジーザス、一緒に歩んでくれよ)
俺が祈る唯一のことは、オレの足が止まらないようにってことだけなんだ
レペゼン:
おぉ!!名曲ですね!!
安食ジョイ:
あの曲を聴いたときに衝撃を受けたんです。信仰的な葛藤を、こんなふうに表現できるんだって思いましたね。また、そのちょうどその時期に友人からもきっかけをもらったんです。聖書学校時代の同期で北海道で「ナイトdeライト」というバンドをやってる友人がいるのですが、彼から「ジョイくん、せっかくラップやってきたんだから、ゴスペルのメッセージを込めてラップやってみたら?」って言われて。そういったことがきっかけで、自分の信仰とラップをつなげた音楽を作り始めました。
レペゼン:
良いですね。ラップに信仰的な内容を入れているんですか?
出会ってほしい“大きな愛”
『OYAGOKORO 親心』に込めた願い
安食ジョイ:
信仰的な内容を意図的に入れて、キリスト教の教義を“教える”というより、自分が日常の中で感じていることを表現している感じです。自分のライフスタイルの中にある信仰、イエスキリストと出会った感動を伝えたいと思っています。
レペゼン:
なるほど。これまで作った曲の中で、特にゴスペルラップとして印象深いものはありますか?
安食ジョイ:
自分の子どもに向けて書いた『OYAGOKORO 親心』という曲があります。そこには、牧師として、そして父としての思いが詰まっているので、個人的にはあの曲が一番、自分が “伝えたいこと”が込められている気がしますね。
【 OYAGOKORO 親心 】
大きくなったら何になりたい??
イチローのような野球選手
宇宙飛行士になって月面でムーンウォーク
役所広司みたいな演技派俳優
それともエルビス、マイケル、ジェームスブラウン、
マービンゲイ、スティービーみたいな歌手か
それともBESのフローとFORKのライム、
晋平太の即興性を兼ね備えたラッパー
ー中略ー
私たちの願いは一つだけ
出会ってほしいただそれだけ
お前を包む大きな愛に
出会ってほしいただそれだけ
これから歩く道は
まっすぐではない
時に険しくはかない
できるなら すべての苦しみを
お前の代わりに
背負ってあげたいけど
それができるのは一人だけ
その人に 出会ってほしい
お前を包む大きな愛に
出会ってほしい
ただそれだけ
レペゼン:
本当に素敵なリリックですね。お子さんへの思いはもちろん、安食さんの信仰の深さ、そして暖かさが曲を通して伝わってきます。
安食ジョイ:
ありがとうございます。信仰を持って生きる中で感じたこと、見えてきたこと、それをどう表現するかが違うだけで、ラップも聖書からのメッセージも“伝える”という意味ではまったく同じなんですよね。自分の曲を通して、何か少しでも感じてもらえたら嬉しいですね。