言うまでもなく、私はサウナ愛好家だ。世の中にはサウナを時間の無駄という人もいるらしいが、私にとっては天国以外の何物でもない。暑さに耐え、体の中の毒素を絞り出した後に冷たい水風呂で絶命しそうになるその行為は変態的ドMの極みとも言えるが、通常では考えられない幸福感を得られる。どんなに忙しくても週に2回は必ず足を運んでいる私にとって、非常に神聖な場所なのだ。そのサウナには通称「ドラクエ」と呼ばれる禁忌行為がある。数人でぞろぞろと入室し、灼熱の密室でなぜか声量設定を誤る人々のことである。なぜドラクエか。常にパーティーだからだ。サウナとは自分の体内と静かに対話する場所であり、心と体の自動回復を図る大切な時間だと私は思っている。そこに「ボリュームデカめの他人のお喋り」が侵入してくると、非常にいら立つ。

↑写真はAI。とてつもなく煩い大学生と思式集団が居た。
先日、いきつけのサウナにそのドラクエが出現した。レベル20前後の大学生と思しき集団が、私語厳禁のサウナ室で「俺、昨日合計30分しか寝てないわー」という絵に描いたような大学生トークを展開していた。私は迷ったが、そのトークテーマがあまりにもどうでもよすぎたこともあり、ついに口を開いた。
「すみません、うっさいんで少し静かにしてもらえますか」
彼らは一瞬静まり、そそくさと退場した。圧勝である。いつものペースを取り戻した私は水風呂に入り、外気浴スペースで目を閉じ、宇宙と一体化しつつあった。至福の時である。しかし、そんな最高のタイミングで露天風呂の方から飛んできた不穏な言葉が胸を突き刺した。
「みんな煩いよ、騒ぐとあのサウナクソメガネに怒られるよ、静かにしよ」
サウナクソメガネとは誰のことだろうか。サウナ内でメガネをかけて注意したのは私しかいないが、そんなブタゴリラみたいな悪口があるだろうか。せめて「灼熱のメガネ」「バーニンググラス」くらいの中二病を拗らせた二つ名であれば、「ふふ、強キャラ扱いか」と悦に浸る余裕もあっただろう。しかし「サウナクソメガネ」。「サウナ」+「クソ」+「メガネ」。あまりにも捻りがない。語彙力がスライム並みである。もはや義務教育の敗北と言える。
公園で犬のフンを踏んだ幼児が「イヌ・ウンチ・クツ」と泣き叫ぶのと、知能指数において何ら変わりがない。
何より腹立たしいのは、整い中のこちらを狙ってコソコソ唱えてくる点だ。陰口というのは聞こえない前提で成立する文化である。それを外気浴中の人間に届く音量で言うのは、ただの甘えだ。悪口を言うなら、こちらが整うか、キレるか、どちらかに振り切れる覚悟を持ってほしいものである。ブチ切れても良かったが、大切なサウナの時間を台無しにするわけにもいかず、もう放っておいた。サウナ室では制圧したのだ。戦いは終わった、そう思っていた。

↑愛用している。メガネの愛眼による「アイガンFORゆ」。良いっス。
サウナというフィールドを出て、お食事処というセーフゾーンへ移動し、最後の〆である湯上がりの蕎麦を啜っていた。サウナ明けの蕎麦はうまい。今日は色々あったが、ここまで来ればもう勝利確定だろう、そんな安堵に包まれていた。そう、私は完全に油断してしまっていた。そのときだった。
「あのクソメガネうざかったよな〜」
なんてことだ。”サウナ”が取れている。サウナを取ってしまえば、もはや私はただのクソメガネである。肩書きまで剥奪された。さっきまで「サウナクソメガネ」というサウナ限定職だったはずが、お食事処に入った途端、汎用型悪口に降格した。転職どころかリストラである。結局、一番「呪い」状態になっているのは、彼らに注意してしまった私の「正義感」という名の装備品だったのかもしれない。次に会った時はパルプンテ(摩訶不思議な事が起こる呪文)を唱えてやりたい。何が起きるかはわからないが、彼らのイチモツが、なぜか五つになる現象が起きればいい、と切に願うばかりである。
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