KMの仕事の流儀
レペゼン:
仕事について聞いていきたいと思います。
どんな仕事をメインにしていますか?
KM:
プロデュースとビートメイクをずっとやってます。
レペゼン:
主に制作はどこでされているんですか?
KM:
自分の場合は部屋で完結って感じですね。
レペゼン:
それはミックスとかもですか?
KM:
ミックスもそうですね。通常ありえない量がリリースされているのは、ずっと部屋で作ってるから。
レペゼン:
確かにとんでもない量をリリースしまくってますよね。笑
KM:
ネットでゴーストいるでしょって書かれたりしてますから。笑
レペゼン:
ネットでそんな事言われてるんですか。
プロデューサーってトラックを作るってのもありますけど、例えばラップのディレクションをしたりだとか、メロディ作りや歌手と仕事したりって事もするんですか?
KM:
プロデューサーっていう仕事は最終責任者だと思うんですよ。トラックも作るし、Vocalも上がってきた物に対してはピッチが違えば直してあげないとダメだし、それぞれの楽器も指摘してあげられないとダメだと思うんです。
レペゼン:
まさにプロデュースって感じですね。
KM:
基本的に僕は一人で作ってて、ボーカルはラッパーに任せるけど、直すとこは直すって感じですね。
レペゼン:
ちなみにKMさんはDJもやってビートも作っていますが、どっちが先だったんですか?
KM:
DJが先になるのかな。
レペゼン:
DJからだったんですね。
KM:
DJと言うよりは、元々スクラッチがやりたかったんですよ。僕が13歳ぐらいの時ってバトルDJが多くて、ターンテーブルが流行ってたので。それで最初はスクラッチの音に魅力を感じたんです。
レペゼン:
なるほど。
KMって名前を付けてDJを始めようとした頃は、トラックを作ろうとは思っていなかったんですか?
KM:
それで言えば、KMって名乗るようになってからはもうトラック作っていました。
レペゼン:
そうなんですね。KMより前の名前とかもあったんですか?
KM:
実はあるんですよ。笑
レペゼン:
なんだったんですか?笑
KM:
DJ CELORY(セロリ)さんに結構いじられるんですけど、最初BON-VOYAGE(ボン・ボヤージュ)に出た時はK-OLDMAIDって長い名前で 笑
「OLD」「MADE」、温故知新に掛けてるんですけども。
レペゼン:
カッコいいじゃないですか。笑
KM:
そう、ちょっとカッコいいからこういうの辞めようと思って。笑
レペゼン:
では、そこからKMに変わった時点ではトラックをもう作ってたんですね。
KM:
僕がBON-VOYAGE(ボン・ボヤージュ)に出てた時はA-Track(エートラック)とかがハウスとラップを混ぜてたり、エレクトロがやっと出てきたみたいな時期だったんですよ。エレクトロって初期はシンプルな音が多くて、これなら出来るかもって思ったのが最初ですね。
レペゼン:
それで自分でトラックを作ってみようと始めた訳ですね。
KM:
それでトラックを作って、クラブでかけてもらうみたいな事を一生懸命やってた時期があしましたね。DJ CELORY(セロリ)さんが当時あったNUTS(ナッツ)ってクラブのメインフロアで、俺の曲をプレイしてくれてたりしました。
HABANERO POSSE(ハバネロポッセ)さんに音源渡して、かけてもらえるまでブースの横でずっと待ってたり。
それで、かけてもらえた瞬間SNSに流すみたいな事してましたね。
MICROCOSMOS(ミクロコスモス)でやってた時ですね。
レペゼン:
その頃って「HABANERO POSSE Remix」と「KM Reimx」出始めてた時期ってイメージがありますね。
KM:
そうですね。その頃はChaki Zulu(チャキ・ズールー)さんもリミックスとかブート出してましたね。一所懸命データ集めて真似してUSに追いつこうと頑張ってた時代ですね。2008〜2010年ぐらいだったかな。
レペゼン:
懐かしいですね。
ちなみに仕事の中でどの段階が一番好きですか?
KM:
一番好きなのは自分の好き勝手に作ってる時。特にBeat Live(ビートライブ)用にブートレグを作ってる時はすごく気持ちがフラットで、あれは僕の中では仕事ではないんですよ。
じゃあ楽曲作りが楽しくないのかって言われると、あれは緊張するんですよ。さっきも言ったけど、プロデューサーって最終責任者だと思ってるんで。
レペゼン:
意外です。緊張されるんですね。
では一曲が完成するまでに、KMさんからラッパーを見つけるんですか?もしくは相手から頼まれるのでしょうか?
KM:
それぞれで違いますね。(sic)boy(シックボーイ)の場合だと、サウンドクラウドで「Hype’s」って曲がすでに一部で流行ってたので、それを聴いてライブに会いに行きました。それで自分ならどうプロデュースするかを話して、それで始まったのが彼とのプロジェクトですね。
レペゼン:
ご自身でライブまで出向いて行ったんですね。
KM:
Kvi Baba(クヴィババ)とか、向こうからDM来て、タイミングあって制作してみるっていうパターンもありました。
レペゼン:
なるほど!
KM:
こいつ絶対周りと毛並みが違うって奴いるじゃないですか。見た目からして正統派のトラップじゃないみたいな。もちろん見た目だけだとすぐ見抜かれるけども。
たぶん、そういう子の方が可能性あると思いますね。良くも悪くも変な物って強いんですよ。
レペゼン:
今って時代がそうなんでしょうね。どの分野でもどこかで局所的に燃えたら他にも燃え広がりますよね。
KM:
そうそう。あとパーティーで普通に上手いDJは覚えてないけど、逆にめっちゃ下手のDJは覚えてるじゃないですか。笑
レペゼン:
そういうのありますね。笑
KM:
でもそれってチャンスだと思うんですよ。お前マジで下手だなって言われてるけど、なんか可愛がられてる後輩とかいるじゃないですか。ラッパーも一緒で、荒削りだけど人とは違った目立つポイントを見つけてあげるのが大切なのかなと思います。
レペゼン:
なるほど。面白いですね。
元々ミクスチャーが好きだったり、今作ってる曲や(sic)boy(シックボーイ)の曲もロックっぽい感じが入っていたりで、話を聞いてて筋が通ってるなって思います。
KM:
ありがとうございます。
レペゼン:
(sic)boy(シックボーイ)のメロディとか聴いてて思ったのが、LOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)っぽくないですか?
KM:
あー確かに。笑
たぶんなんですけど、(sic)boy(シックボーイ)は昔のJ-POPもけっこう聴いてて、僕より詳しいんですよ。そういうのが関係するのかも。
レペゼン:
あとLOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)も韻を踏んだりするじゃないですか。
KM:
そうですね。リリックにスピード感ありますね。
レペゼン:
それが聴いてて似てるなって思ってました。
KM:
それは今言われて初めて気が付きました。たぶんボーカルの重ねてる本数が、LOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)と近いかもしれないです。
レペゼン:
音を重ねる本数なんですね。
メロディーがスッと入ってきますよね。
KM:
あと彼のすごいのが、フリースタイルもけっこうやってて、ラッパーとしてのポテンシャルも非常に高いと思います。バトルには出てないですけど、友達と遊びでやってたりって環境にいたので。
レペゼン:
そうだったんですね!
楽曲制作のインスピレーションはどこから受けますか?
KM:
クラブ行くと曲作りたいってなるかも。大きい音でカッコいいトラックがかかると「家帰って曲作ろ」ってなります。笑
レペゼン:
上がっちゃって帰るんですね。笑
KM:
帰ってすぐに試すみたいなタイプ。
レペゼン:
例えば、曲の作り手と単にリスナーとでは曲の聴き方が変わると思うんですけど、流れてる曲を聴いて「ここでそれを入れるんだ!」みたいなことを感じる事はありますか?
KM:
クラブって、実は音のバランスって良くないと思うんです…すんません、良くないとこが多い(笑)
ベースだけ極端に強調されて、そういう場所で聴くと、音数が削ぎ落とされてる曲の方が魅力的に感じたりする。
レペゼン:
あーなるほど。
KM:
J-POPで音のレイヤーがたくさんあるのは、クラブでかかること想定しないですよね。
レペゼン:
クラブでかかる事を想定して作ると、音数は多くなくて良いって事なんですね。
KM:
一概にそうとは言えなくもなって来てるんですけど、無駄なものは削ぎ落としていくっていうのは一つの答えではあります。
レペゼン:
クラブでの鳴りが良いものを作ろうって感じなんですか?
KM:
僕の作った曲はクラブでかかっても大丈夫な音源にはなってると思います。ギリギリDJプレイ出来るミックスというか、音のレイヤーも、クラブでライブしたりDJがプレイすること考えると自然とそうなります。
レペゼン:
面白いですね。
KM:
(sic)boyの「Akuma Emoji」とかはちょっと違うかもしれないですけどね。でもベースの部分では、ミックスで最低限トラップスタイルのレベルまで引き上げるっていうのはやってるかも。
レペゼン:
「Akuma Emoji」好きです。
普段どんな事を心がけて仕事をしていますか?
KM:
自分で、締め切りまで何回も聴いて、何回聴いてもいいなって思えるとこまで詰める。
レペゼン:
何を求められていると思いますか?
KM:
「Heaven’s Drive」以降のオファーは、ある程度予算を組んで貰ってるので、狙っている層に注目されるような物に仕上げるようには心がけていますね。そのために、どうすれば良いかっていうのは、常に動いているものなので、雲をつかむような感覚なんで具体的には説明できないんですけども。
最終的には「オレならこういう曲が聴きたい」っていうのが判断基準かもしれない。
なんか説得力ないなぁ。笑
レペゼン:
いや、そんな事ないですよ!
ちなみにプロデューサーって自分との闘いだとおもうんですけど、このコロナ禍で制作ペースは上がりましたか?
KM:
たぶん上がったと思います。オレたぶん、メンタル強い方じゃなくて、ニュースとかうんざりするんですよね。
2020年のこと後から振り返ってみると、世の中がどんどん悪い方向に向かって行ってキツかった。見ないようにしても情報は入ってくるし、向きあってちゃんと学ばなくちゃならない問題もたくさん出て来ましたよね。
そういう事からの現実逃避で作り続けてるっていうのはあります。
レペゼン:
制作がストレスの解消というか、メンタルケアにもなってるんですね。
KM:
レベルミュージックみたいに世界情勢を受けて世間への反抗のアートってよりは、自分の世界の中だけで作るってタイプですね。レベルミュージックは「まだ」自分の仕事じゃないと思ってます。まだまだ勉強不足で説得力もないですから。ちゃんと伝えたい事が分かったら、そういう音楽になるかもしれないけども。
レペゼン:
無理せずあくまで等身大の自分で作ってるって事ですね。
KM:
無理はせず自分で責任を持てる範囲でやってます。家族の事、友達の事、音楽のことやクラブカルチャーのこととか。
レペゼン:
しっかりとした責任感を持ってやられていますね。
KM:
今、皆に言いたいのは、それぞれが勉強すればいいって事ですね。例えば、オレがSNSで政治スタンスを表明したことで、その理由も何も無く、不特定多数を同調させてしまうかもしれないじゃないですか。そういうのって好きじゃないんですよね。もう、本たくさん読んで自分で判断していくしかないと思ってます。答えもそれぞれ立場が違えば変わってくるし。
もちろん、SNSでそういう意見を発言して、それが仕事の人も居ます。でもそれはオレの仕事じゃないって思ってます。今は。
レペゼン:
今の時代それも考えていかないといけない問題なんでしょうね。