ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今月のゲストは、人気オーディション番組『ラップスタア』の撮影・編集を務める映像ディレクター・菊池謙太郎さん。vol.4では、ラッパーの子ども時代の話を深掘りした書籍『LIFE HISTORY MIXTAPE』について聞いていきます。映像を専門とする菊池さんが書籍を制作し、リリースした訳とは!?
前回の記事はこちら→ 僕も『ラップスタア』に救われた。映像ディレクター・菊池謙太郎の人生の転換点。
聞き手150人・語り手150人による
生活史の聞き取りに参加した

レペゼン :
ラッパーたちの生い立ちにフォーカスしたインタビュー本『LIFE HISTORY MIXTAPE』についてお聞きしたいと思います。書籍制作を始めたきっかけはなんだったんですか?
菊池謙太郎 :
『ラップスタア』でラッパーたちを取材していると、面白い話がいろいろあったりするんですけど、番組の都合で省かざるを得ない内容もあったんです。それがすごくもったいないなと思って。
レペゼン :
すごく分かります。編集の辛いところですよね…。
菊池謙太郎 :
そんなある日、社会学者の岸政彦(きし まさひこ)さんという方の存在を知ります。岸さんは社会学の調査として生活史の聞き取りをされている方なんですが、論文のために聞き取り調査をする中で「面白いけど論文には必要ない話」がたくさん溜まっていたらしく、それをまとめた『断片的なものの社会学』という本を出されていて、それを読んで岸さんのファンになったんです。
レペゼン :
へー!アカデミックな領域ではあるものの、ドキュメンタリーの取材にも近いものを感じますね。
菊池謙太郎 :
そうなんです。それから岸さんは、『東京の生活史』というインタビュー集の監修もされています。これは、150人の聞き手と150人の語り手が参加するという試みで、しかもその聞き手を一般公募で集めるということだったんです。
レペゼン :
150人ですか!壮大なプロジェクトだ。
菊池謙太郎 :
その聞き手側に自分も応募して参加させてもらうことになり、そこから生活史の聞き取りというものを初めてやってみたんです。これがめっちゃ面白くて。『ラップスタア』の取材・編集を進めるなかで、面白いけど載せられなかったラッパーたちの昔の話も、このスタイルだったら形にできるかもと思って、書籍化の構想を練り始めました。
レペゼン :
なるほど。映像のプロとして、動画配信という選択肢もある菊池さんが、あえて書籍で伝えている姿勢が興味深いです。「映像ではなく書籍」という点にこだわりはあるんでしょうか?
菊池謙太郎 :
人の人生を聞き取ってコンテンツにすることって、やっぱり書籍と相性が良いじゃないかと思って。ハードな経験を含めた彼らの大切な記憶を扱うからこそ、気軽にコピペできる媒体で発信することに抵抗があって。とはいえ、より多くの人に知ってもらうことも必要なので、今後映像を使うことも出てくるかも知れませんが。

レペゼン :
たしかにある程度のリーチ数も必要ですもんね。『LIFE HISTORY MIXTAPE』の「01」をリリースした時は、どんな感想を抱きましたか?
菊池謙太郎 :
もちろん規模は全然違いますが、「自分の作品を作って世に出す」という意味では、なんとなくラッパーの気持ちに近づいた感じがしました。今まで僕は依頼を受けて行う仕事が多かったんですが、“自分で作る”という経験をすることは、自分の力で曲やアルバムを作ってプロモーションまでしていくというラッパーの活動と近いと思うんです。誰に求められたわけでもなく、自分がやりたいからやるという経験を通して、自分も彼らの気持ちがわかるような気がしています。
レペゼン :
自費出版、セルフプロデュースというところも含め、共通点は多そうですね。逆に世間からの反応・反響はいかがでしたか?
菊池謙太郎 :
取り扱いしてくださる本屋さんや、SNSに感想をあげてくれる人など、無名である僕の本に対するリアクションを感じた時は本当に嬉しかったです。ただ、本や生活史が好きな人から興味を持ってもらっている感覚はある一方で、ヒップホップ好きの若い世代にはいまいち広がっていない感じも強いですね。それがこの2年くらいの実感です。
分かる人には分かる
サンプリングを忍ばせる

レペゼン :
『ラップスタア』の2025年シーズンもちょうど終わったばかりですが、今回の見どころを教えていただけますか?
菊池謙太郎 :
どこから見ても面白いですが、最小限振り返って見るなら、「ラップスタアキャンプ」からでも十分楽しめると思います。この番組は完全ガチなので、僕らディレクターも全員「どうなるんだろう」と、ワクワクしながら撮っていますね。
レペゼン :
その場にいる全員が予想がつかない空気の中進んでいったんですね。
菊池謙太郎 :
その分大変なことも多いけど、だからこそやってて楽しいです。
レペゼン :
ラッパーたちも本当に個性の塊ですよね。ライブも見応え抜群でした。
菊池謙太郎 :
視聴者と同じ目線でもあるので、毎回ラッパーたちのことを好きになっちゃいますね笑
レペゼン :
ありがとうございます。いろんな形でヒップホップに触れ、また発信されてきた菊池さんですが、改めて振り返った時に、ヒップホップカルチャーから大きく影響を受けたことがあるとすればなんでしょう?
菊池謙太郎 :
そうですね、映像の作り方におけるサンプリングというか、既存のものを自分なりに組み合わせていくということは影響を受けたかもしれないです。『ラップスタア』の中でそれを表現することはないんですが、例えばイベントのオープニングムービーを作るときに、デザインするロゴだったり、ちょっとしたカットに意味を持たせたりしています。分かる人には分かるネタ、くらいの感じですけどね。
レペゼン :
素敵ですね。さりげないサンプリング、大好きです!
菊池謙太郎 :
そういうふうに、ものづくりにおける引用元があるというのは、ヒップホップからの影響が大きいです。
LIBROのシンプルな言葉が
背中を押してくれる1曲

レペゼン :
最後に菊池さんが元気をもらえるラップソングを教えてください。
菊池謙太郎 :
LIBROの「運命が君に会いにきた」です。とてもポジティブな内容の曲なんですが、これまで着実にキャリアを重ねて、ベテランに差し掛かってきているLIBROが、ここにきてめちゃくちゃシンプルな言葉で背中を押してくるという、そのやり方自体にグッときますね。
【LIBRO – 運命が君に会いにきた】
レペゼン :
たしかに、年齢とキャリアを重ねた彼が語るからこそ響くものがありますね。特に気に入ってるラインはありますか?
菊池謙太郎 :
フックの「いけいけいけいけ」とかは、超シンプルで好きですね。あとは前半にある歌詞も、ひたすら前を向ける内容で好きです。
いけるいけるいける
地面思いっきり蹴る
ジャッジ無用 正解不正解
どんどん繋いでいけ 感覚世界
菊池謙太郎 :
映像もめっちゃ良いのでぜひチェックしてみてください。
レペゼン :
ありがとうございます。疲れている時に効きそうな曲なので、くじけそうな時は頼りたいと思います笑
本日は、映像ディレクターとしてのキャリア、『ラップスタア』での経験、そして書籍リリースまでの経緯など、たっぷりお話いただき、ありがとうございました!
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プロフィール
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青森県むつ市出身、東京在住の映像ディレクター。主にお笑いと音楽関連の映像を手掛け、特に近年は『ラップスタア』のディレクターとしてラッパーたちの実情や心情を映し出す仕事が高い評価を受けている。また映像にとどまらず、ラッパーの子ども時代のエピソードを綴った書籍『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』(まわる書房)を2024年6月に自主制作で刊行し、翌年には同『02』をリリース。アーティストの生い立ちやライフスタイル、また心の機微を伝える優れた聞き手・撮り手として、映像・書籍・トークショーなど多様な場で発信を続ける。 (photo by 白鳥建二)

