目 次
パーティーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人たちがいる。 彼らはなぜ、この仕事を選んだのか? このコーナーではパーティーというカルチャーに関わり続ける演出家たちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。 今回は仙台を拠点に活動するDJ ASARIさんにお話を伺います。

DJ SHUNSUKE:
まずは自己紹介をお願いします。
DJ ASARI:
DJ ASARIです。宮城県仙台市出身、DJ歴は27年になります。
音楽観を変えた今夜はブギー・バック
DJ SHUNSUKE:
まず、ASARIさんにとって「音楽の原点」といえる体験ってなんだったんですか?
DJ ASARI:
中学3年の時に初めて聴いた、小沢健二 featuring スチャダラパーの『今夜はブギー・バック (nice vocal)』ですね。それまではCHAGE & ASKAさんやMr.Childrenさん、当時流行っていた小室哲哉さんプロデュースの楽曲などのJ-POPを聴いていたんですが、この曲で初めて日本語ラップというものを聴いて衝撃を受けました。そこからスチャダラパーのDJ SHINCOさんの存在を知って、”DJってこういう事をする人なんだ”と興味を持ったのがきっかけです。その後はDE LA SOULやA TRIBE CALLED QUEST、GANG STARRといった洋楽のヒップホップも聴くようになって、どんどんのめり込んでいきました。

DJ SHUNSUKE:
なるほど。まさに”入口の一曲”ですね。その『今夜はブギー・バック』とはどういうきっかけで出会ったんですか?
DJ ASARI:
中学のときサッカー部だったんですが、仲間のひとりが「面白い曲あるよ」って貸してくれたんです。それが『今夜はブギー・バック』でした。
DJ SHUNSUKE:
当時の中学生にとってはかなり新鮮だったでしょうね。僕もよく覚えています。
強い衝撃を受けたBEASTIE BOYSの『Sure Shot』
DJ SHUNSUKE:
『今夜はブギー・バック』が音楽の入り口とするなら、強い衝撃を受けた曲ってどんな曲だったんですか?
DJ ASARI:
BEASTIE BOYSの『Sure Shot』ですね。アルバム『Ill Communication』の1曲目に入っていて、ロックとヒップホップをミックスしたサウンドを初めて聴いたときは、あまりのカッコよさに本当に衝撃でした。あの頃は毎日、1曲目だけリピートして聴いてましたね(笑)。
DJ SHUNSUKE:
めちゃくちゃわかります!当時そんな言葉なかったと思いますけど「ミクスチャ―」って感じがしましたよね。

DJがレコードを操ってお客さんを踊らせる姿が本当にかっこよかった
DJ SHUNSUKE:
そもそもDJを始めようと思ったのはいつ頃だったんですか?
DJ ASARI:
『今夜はブギー・バック』を知ったのと同じ中学3年の頃です。
DJ SHUNSUKE:
かなり早いですね、僕らの世代だと高校生になってから始めてる奴でも早い方だと思うんで中学ってなると中々異色の速さな気がします。
DJ ASARI:
もしかしたらそうなのかもしれないですね。僕の場合は、友人のお兄さんがDJをしていて、その友達の家に遊びに行ったとき、初めて実物のターンテーブルとミキサーを見た事がおおきなキッカケでした。機材の存在感に感動しましたね。さらに、そのお兄さんがイベントでDJするって聞いて見に行ったら、クラブの雰囲気や、DJがレコードを操ってお客さんを踊らせる姿に完全にやられちゃいました。「自分もDJなるんだ」って決めました。 ちなみに今、その友人の娘さんにDJを教えたり、一緒にイベントに出てもらったりしてるんですよ笑
なんだか運命を感じますね。
DJ SHUNSUKE:
すごい話ですね笑
自分のDJキャリアスタートに関わる友達の娘さんに教えるなんて当時は考えられなかったでしょうね!

何度かDJを辞めようと思ったことがある
DJ SHUNSUKE:
ではちょっと突っ込んだ質問になるんですが、長いキャリアの中で、辞めようと思ったことはありましたか?
DJ ASARI:
何度かありますね。実際、人前でDJするのを半年ほど控えた事があります。その間は自宅でMIX TAPEを作って、いろんな人に配ってたんです。
DJ SHUNSUKE:
半年って結構長いですよね?何故活動を控えたのか聞いても良いですか?
DJ ASARI:
『あいつお前のこと悪く言ってたよ』とか、少し目立つと足を引っ張る人がいたりで人間関係に疲れてしまったんですよね。今振り返ってみると大したことではないのかもしれないですが、当時は少し苦しみましたね。DJ自体を辞めてしまいそうになったので、1度現場から離れてみました。でも音楽は好きでしたし、DJも大好きだったので、現場出演は控えていましたがレコードは買い続けていて、当日MIX TAPEを宅録しては周りの友達に配って聴いてもらっていました。
DJ SHUNSUKE:
夜の業界で良くある話なのかもしれないですけど、そういう経験は自分もあります。復帰のきっかけは何だったんですか?
DJ ASARI:
休んでいた時期作ったMIX TAPEをたまたま仙台のクラブイベントのオーガナイザーが聴いてくれて、「一緒にやらない?」って声をかけてもらって。自分にとってとても大きな出会いで今もDJを続けられているのは、その方のおかげだと思っています。本当に感謝しかないですね。現場に戻って、お客さんの前でプレイしてみたら、自分の好きな曲を共感してもらえたり、かけた曲で喜んでくれる瞬間があって。「あぁ、やっぱりDJって最高だな」って思ったんです。その感覚が今も自分を突き動かしてくれる大きな原動力になっています。
DJ SHUNSUKE:
僕達の活動するクラブって、実は色々な人とつながる場所で、そこでつながった縁が人生を大きく変える事もありますよね。
一度きりの人生、好きなことを仕事にしたい
DJ SHUNSUKE:
ご自身の中でのターニングポイントはいつですか?
DJ ASARI:
20歳くらいの頃です。当時は4年ほど会社員をしながらDJを趣味でやっていたんですが「一度きりの人生、好きなことを仕事にしたい」と思ったんです。色々と考えたんですが、務めていた会社を辞めました。親には反対されましたけど笑
DJ SHUNSUKE:
そうなんですか!全然知らなかった。
DJ ASARI:
はい。ただ、実際DJだけで食べていくのはそんなに甘くなくて、MIX CDを作っては東北6県のお店に電話して「置いてもらえませんか」って行脚してました。今こうして続けられているのは、あのとき支えてくれた周りの人たちのおかげです。
DJ SHUNSUKE:
下積みの間に本気で動いた人の言葉ですね。説得力ある言葉だと思います。


鮮明に覚えている瞬間がある
DJ SHUNSUKE:
では、キャリアの中で印象に残っている出来事は?
DJ ASARI:
自分がオーガナイズに関わっていたイベント『THE VILLION NIGHT』ですね。最初は200人未満の集客だったんですが、7年目には600人くらいまで増えて。イベント中、みんなで札束を一斉に巻く瞬間があったんです。あの場にいた600人が一斉に投げた紙幣が舞った光景は本当に鳥肌もので、今でも鮮明に覚えてます。
DJ SHUNSUKE:
『THE VILLION NIGHT』のフライヤーや写真は当時のSNSでも見た事があります!凄い光景だなって思った記憶がありますね!


DJの楽しさをもっと多くの人に伝えたい
DJ SHUNSUKE:
今はどんな活動に力を入れていますか?
DJ ASARI:
開校して2年目になる「DJ SCHOOL SENDAI」です。おかげさまで6歳から65歳まで、幅広い年齢層の方に通ってもらってます。DJの楽しさや、自分の選曲で人に喜んでもらえる嬉しさを、もっと多くの人に伝えていけたらと思ってます。

DJ SHUNSUKE:
最高ですね!最後に、これから仙台のクラブシーンに入ってくる若いDJたちへメッセージをお願いします。
DJ ASARI:
仙台でも、僕が知る限り10人ほどDJで生計を立てているプレイヤーがいます。最近はクラブだけじゃなく、スポーツ会場や飲食店、日中のイベントなど、DJが活躍できる場も増えてきてるんですよ。これからもっとそういう場所が広がっていくといいなと思ってます。 ぜひ一緒に仙台のクラブシーン、DJシーンを盛り上げていきましょう!

プロフィール
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1997年から仙台を拠点にDJ活動を開始。現在は東北をはじめ、都内などにも活動エリアを拡げている。プレイスタイルはHIP HOPを中心とした選曲に、R&B、90'sクラシックス、DISCO、ROCK、REGGAEなど織り交ぜたオールジャンル。圧倒的な2枚使いとハイスキルなスクラッチ、そしてミックスセンスには高い評価を得ている。作品においてはこれまでに通算60タイトル以上を全国展開し日本各地に名を轟かせる。2015年7月には東北在住のDJとしては初となる老舗レコード店『MANHATTAN RECORDS』よりOFFICIAL MIX CDを発売。これまで『AIR JAM2012』のAFTER PARTY DJ、2016年にはbj LEAGUE ALLSTAR GAMEにてDJ PLAYを披露。2018年より東北楽天ゴールデンイーグルスのスタジアムOFFICIAL DJとして抜擢され、HOME GAMEにて毎試合DJ PLAYを披露している。2024年よりB1 LEAGUE 仙台89ersアリーナDJとして抜擢。城南高等学校、仙台スクールオブダンス&ミュージック専門学校、島村楽器仙台店にてDJ講義を務め、2023年12月より自身が主催するDJ SCHOOL SENDAIを開校し活動の場を広げている。
