詐欺電話の回

電話詐欺師との壮絶な戦い

ライター:DJ SHUNSUKE

ある日、スマホに見慣れない番号から電話がかかってきた。しかも国際番号である。国際的に信用されるほどの人物ではないが、出てみると「NTTカスタマーセンターです」と来た。続けて「あなたが契約している090の番号から大量の迷惑メールが発信されています。迷惑料を払わなければ警察に逮捕されます」と言われた。

一瞬「逮捕」という強い言葉に引っかかりかけたが、こちらにも長年生きてきた実績がある。それにバン仲村さんの仲村TV(超面白い)を毎回必ず見ている俺は「詐欺だ!」と即時に察知した。身に覚えのない電話番号に迷惑メールの罪をなすりつけられ、しかも被害者ではなく“NTTに”金を払うというストーリー展開は、だいぶ脚本が雑である。

↑実際の電話が掛かってきた番号。

それでも、ストレス解消も兼ねて、仲村TVで身に付けた詐欺電話対策を試す格好の機会と捉えちょっとだけ付き合ってみることにした。
「その番号、見たことも使ったこともないんだけど?名前の漢字も確認してもらっていい?あと、警察の所管は?」と返すと、やや間が空いた。電話番号に関しては全く心当たりがないし、所管の警察名は「教えられません」と来た。ただ、名前の漢字だけは合っていた。合っていたからどうした、という話である。

「仮にその番号が本当に存在して、誰かが俺の情報を使って契約したとしてもそれは無効だし、なぜ俺が“NTTに”金を払うのか?全くもって筋が通らない。どこの警察が関与しているのかも言えないとは、あなた本当にNTTか?」と問うと、詐欺側の態度も変わってきた。

「じゃあ、逮捕されていいってことっスか?金払えば逮捕されないんスよ」と、やけ“ス”と“逮捕”を推してくる。どうやら逮捕という言葉が彼の必殺技らしい。だがこちらは、風営法が改正される前に西麻布のクラブでDJをしていたところを本当に警察に連れていかれそうになった過去がある。その時に比べれば、この電話の威圧感など微風に等しい。

ここで一旦、話を戻す。先ほど触れた“西麻布でのDJ中に逮捕されそうになった件”には、いささか後味の残るエピソードがある。

2013年ごろ、西麻布の大型クラブでDJしていた時のことだ。持ち前のスキルでウッカリ客を踊らせてしまい、風営法の網に引っかかって麻布警察署に連行された。そのとき、取調室で見かけたのが、毎週イベントに来ていた“可愛いと思っていたあの子”だった。そう、潜入捜査官だったのである。「お兄さん、何時くらいからDJするの?盛り上げてね!」なんて笑顔で声を掛けてくれていた。バーテンダーの兄貴からスッと出てきたヘネシーウイスキーを一緒に飲んだこともあった。そんな彼女が、集団取調室で死んだ魚のような冷え切った眼で「身分証出して。早く」と言ってきた時は、脳内で天地が逆転する音がした。ビヨンセのGet Me Bodiedで軽やかに踊っていたあの姿はすべて偽装。ヘネシーの乾杯も捜査の一環。このときほど人間不信に陥った夜は他にない。結果、逮捕には至らなかったが、精神的には一回留置場にブチ込まれた気分だった。

…というような体験が既に人生の履歴書に刻まれているので、今回の「逮捕するぞ」「金払えば大丈夫だぞ」といった雑な脅しなど、特に効かないのである。

↑こんな感じの元気の良さそうな女性が実は警官だった。写真はaiです。

さて、そんな記憶を脳内でリプレイしながら「調べるから、あんたの折り返し番号と名前教えて」と言ってみたところ、詐欺師は「えーと、えーと…私の名前は“おんなにかわ”で、女川です」と言い出した。咄嗟につけたにしては字面が特徴的すぎる。もう少し空気のような名字にできなかったのか。

そして「メモの用意はいいですか?」と声を張ったあと、「072-4545-3150、オ○ニーシコシコサイコー!!!」と叫んで電話を切った。
完全に負けた。こちらが丁寧に詰めていたところに、急に背後から下ネタで頭を殴られたような気分だ。考え抜かれたボケではない、ただただ自爆的に叫んで去っていった。昭和の男子中学生ならいざ知らず、これを口にするのが何歳くらいの人物かを想像すると、胸が痛む。

冷静になって考えてみれば、「女川(おながわ)」の時点で察すべきだった。一瞬の油断が命取りとなった。令和のこのご時世に「シコシコサイコー!」などという古の中二病をぶちかます奴がいるとは思ってもいなかったが、恐らく電話の主は、昭和の終わりから平成の闇を泳いできたロストジェネレーション世代。40代後半から50代、もしくは「詐欺をしながらふざける」という人生の崖っぷちに立ってしまった中年の悲哀。まさに“ロスジェネの負”が滲み出ていた。

そう考えると、怒りよりも妙な哀しみが胸に残った。今の日本は間違いなく沈没寸前と言えよう。こんな電話を掛けなければ食っていけない沈没寸前の世の中が、きっと彼を「女川シコシコサイコー」にしてしまったのだ。いっそ、本物のNTTが出てきてこの男の人生を契約解除してくれないものだろうか。もしくは、誰かが彼の“迷惑な人生”をブロックしてくれればいいのに。

しばらくは「072-4545-3150」が頭から離れそうにない。今度詐欺電話が来たら、「NTTですか?それとも、また“シコシコカスタマーセンター”ですか?」と聞いてみることにする。

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